美容院と朗読


 2月14日、午前11時。亮介と美月は美容院でアジさんに髪を切ってもらっていた。ローズとフランクが広場の椅子に座ってアレックスとベラ、リズをひざの上に座らせて児童書を読んでいるのが見えた。

 「ありがとうございました」と一礼すると、アジさんは二人に「またお待ちしてまーす」と笑みを見せた。

 


 美容院を出た後、ブドウとイチゴの果肉入りクレープを食べ終えてビッグベンを眺めていると「『ミーン』はファンが多い私を憎んで、バールを振り上げようとしてた」と美月が小声で言った。

 亮介は妻の肩に手を置き、「エドワードさんと朗読の仕事や虐待防止ステッカー作りをしている。今日の午後2時に、児童書と小説を朗読する」と言って笑みを見せた。

 


 ―――午後2時。亮介とエドワードが校内の2階に入り、机の前に立って『スター・オブ・デルトラ1 影の大王が待つ海へ(エミリー・ロッダ著 岡田好恵訳、KADOKAWA)』と『あやかし専門縁切り屋』(雨宮いろり著、角川ビーンズ文庫)を朗読する。小学生から高校生までの20人は二人の熱演に聞き入り、拍手が起こった。


 「朗読を聴いて、涙が出てきました」ゴルバチョフと背中まである茶髪で12歳の日本人女子が水色と淡い緑のフェイスタオルで顔を拭きながら言った。

 「ありがとう」亮介とエドワードはオオスズメバチの羽音で不審者を失神させる、ブルーベリーケーキの形の虐待防止ステッカーを20人に渡す。



 「洪水が起きた!」と睦月の絶叫が聞こえ、通りを見るとトムやライスたちがハンマーで車のガラスを割り、2~5歳の女の子4人と父親を救出したのが見えた。

 「ゴルバチョフ!『young flowers』に避難しろ‼」亮介に肩を掴まれ、ゴルバチョフは「はい‼」と答えてリズやレオナルドたちとラジオ局の1階へ向かった。

 

 

 通りに出ると、ほおが腫れ上がった『熱湯女』が「息子を助けて‼」と絶叫し、水色のフリースと濃い緑のズボン姿の男の子が太い流木に摑まっていた。亮介は髪から水を滴らせている男の子を背負い、カフェ&バーの1階に入って青色のソファーに座らせる。

 男の子は幸一から渡された湯気の立つ豆腐とネギ入りのみそ汁を飲み終え、「ありがとうございます」と亮介と幸一に言った。



 ―――午後5時。『young flowers』の1階で、美月と直美がレモネードを飲みながら待っているとカチャリという音がし、亮介とエドワードが室内に入ってきた。

 「亮介‼」美月は夫に駆け寄り、黒い短髪に唇をつける。猛雄と空音、肩まである髪を緑色に染めた17歳の新緑五月が小躍りし、ゴルバチョフやアレックスたちのほおが赤くなった。

 (ヘレナの息子で19歳と17歳のホホジロザメ、ドウェインとジャックは落ち込んでいた)。


 

 


 


 



 

 

      


 



 

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