雪崩と『ストールン』の最期
『ミーン』は紺と橙色に染めた爪を美月のほおに当て「田舎生まれの日本人‼」と憎悪のこもった大声で言い、箱に入っていたバール2本を美月に向かって振り下ろそうとする。美月がスノーブーツで『ミーン』の腰を打ち転倒させた直後、落下してきた雪が倉庫内のドアを粉砕した。
倉庫内に入って来たナターシャが、枝を切った太い流木で『ストールン』の腰を強打。リーナはバールを床に落とした『ミーン』を床にたたきつけて失神させ、壁にひびが入った。
亮介は「雪崩が来てる。しっかりつかまってろよ」と言って美月を背負い、ナターシャとリーナもウィリアムの背中に座って倉庫から出た。
オータムが亮介と美月を背中に座らせ、道路に積もった雪や小枝をよけながら広場へ向かう。地面に入ったひびに、亮介の肩を掴んでいた美月が「通れるのここ?」と小声でオータムに聞くとひびや小枝を飛び越え、睦月のカフェ&バーの前へと来た。
「ありがとう」亮介はオータムの首をなで、1階へと入る。猛雄と空音が美月に駆け寄り、「美月先生!」と笑みを見せた。
「『ミーン』は美月さんの誘拐と暴言を入れた憎悪犯罪で逮捕され、賢哉さんや愛犬のポピーにも怒鳴ってたそうだ」睦月が青ネギ入りのうどんを亮介の前に置き、小声で言う。
直後、「ああ―――‼」と『ストールン』が絶叫し、雪崩で埋まるのが店内から見えた。
―――午後1時。「『ストールン』は雪の中で体温が低下し、凍死した」雪かきを終えたエドワードが亮介の肩に手を置き、ベージュの短髪についた雪を地面に落としながら湯気の立つ抹茶を飲み終え、雪に埋もれた車を動かしに通りへと向かった。
亮介が校内での朗読を終えて1階に戻ると、美月がビッグベンが描かれた缶に入っている12個入りのバタークッキーを弥生と食べながら、渡された新緑色のハンカチで目元を拭いていた。
白い羽で両目が黒いセキセイインコのマカロンを肩に乗せたゴルバチョフが亮介の肩を後ろからたたき「美月さんとハグして」と小声で恥ずかしそうに言った。
階段の前で美月を抱きしめていると、バタークッキーを食べ終えたリズとベラが
美月のひざに乗ってきた。
「茶髪、背中まであるな。月曜に美容院でアジさんに切ってもらうか」「うん」小声で話していると、ジョリーとサラザールがテムズ川内に浮かんでいるタバコをトングで拾いビニール袋に入れているのが見えた。
「田原家の大黒柱として、美月さんと直美を守れ」睦月が、暖炉の前に置かれた抹茶色のソファーで寝息を立てる美月を見ながら亮介の肩に手を置く。
広場で盗撮犯の男性二人を失神させた空音と猛雄も「サラさんやナターシャ、ゴルバチョフへの暴言が増加してます」と小声で言い、湯気の立つロールキャベツをかじった。
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