グリントとカトリーナ、絶叫


 グリントとカトリーナの母親で34歳の女性は弥生に連れられ、広場に置かれた丸椅子に座ってトマトとベーコン、黒コショウ入りのサンドウィッチを食べていた。

 おもちゃ屋で店主の男性エンジョイ・メイキングトイと話していた息子と娘の肩をたたき「グリント、カトリーナ。ごめんなさい。一緒に暮らしてくれる?」と聞くと、二人の目から涙が流れ出した。

 

 「お母さんと暮らすぐらいなら、カトリーナたちと寮に入る‼」「お母さんは私が『あの男性と別れて』って言っても別居せず、私と兄さんをジュースの空き缶やバールで殴った!大嫌い‼」息子と娘の絶叫に、女性はふらつきながら石畳に座り込む。


 

 「グリントとカトリーナはロンドン警察署で号泣し、ポピーとベイリーに顔をなめてもらって賢哉さんや睦月さんにも笑顔を見せるようになったんです。

 あなたが付き合っていた男性は広場や大通りで暴行事件を起こすことが多く、小中学生や高校生も近づこうとはしませんでした」弥生は静かな声で言い、カップに入っている抹茶を飲んだ。


 サンドウィッチを食べ終えた女性はジェームズのバンダナ店に向かい、棚の上に

置かれた抹茶色のベストを手に取った。胸ポケットには青色の時計が描かれている。女性がベストをレジに持って行くと、ジェームズが会釈して札と硬貨をレジに入れた。机の上には4本の縫い針とちりとりが置かれている。

 

 「カトリーナとグリントはラジオ局『young flowers』の2階で、オータムとローズさんに『学校でフットサル部に入った』と言っていた」

 ジェームズは湯気の立つレモネードをカップに入れて女性に渡し、テムズ川を見て「密猟者による子どもの連れ去りが多いな」と小声で言った。

 

 広場ではケルト音楽の『ケーシュ・ジグ』に合わせて子どもたちが踊っている。ベージュのダウンコートに黒いベストとスニーカー姿で9歳のリリーがジェームズに手を振り「こんにちは!」と嬉しそうに駆け寄ってきた。肩まである茶髪には雪がついている。

 ジェームズは「リリー、寒くなってきたな」と言って緑色のタグがついた寄付品の防寒ライフジャケットをベストの上に着せた。

 「ありがとう」リリーは丸椅子に座って賢哉の愛犬ポピーの耳と背中をなで、笑みを見せた。


 ―――午後9時。グリントとカトリーナは寮内でオレンジ色のハチミツとブルーベリージャムを塗ったパンを食べながら牛乳を飲んでいた。ポアロとベイリーの散歩を終えた11歳の男子が「睦月さんのカフェ&バーで、豆腐のみそ汁が出るんだって。食べに行ってみない?」と手を洗い終えてソファーに座り、声をかけてきた。

 「食べに行きたい」二人は皿とコップを熱湯で洗い、男子に「おやすみ」と手を振って二人部屋へと入り電気を消した。


 


 


 

 

 

 





 

 

 


 



 


 


 


 


 

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