亮介の広場ライブと救助隊員の男性5人


 広場で亮介がロシア生まれで19歳のナターシャ、11歳のゴルバチョフ姉弟と一緒に『光』と『影』と呼ばれる男子高校生がバスケ大会での優勝に向け奮闘するアニメの主題歌を熱唱していると、ポアロとベイリーがしっぽを回しながら亮介のジーンズに乗り、広場に集まったファンが満面の笑みになった。

 亮介や佑樹、ファンたちに不審者や密猟者が近づかないように広場を見ていたオータムとウィリアムが、最後に流れるドラムの音に合わせ「ウォ―――ン‼」と吠えて雪の積もった屋根から下りる。

 亮介がダウンコートやジーンズの上でこけそうになったポアロとベイリーをなでてファンに一礼すると、新品の日記帳やミニカーなどが渡された。


 

 バケツに入れた温水で道路に積もった雪を溶かし終えた元薬物常習犯やスリの20~50代の男性5人が、亮介と美月に近づいてきた。

 「田原亮介と、美月です」「サムだ。よろしく」黒いダウンコートを着た大柄な56歳の男性サムが二人と握手し、湯気の立つ抹茶を渡す。


 「俺は元宝石強盗で、ハンマーでガラスケースを割ってネックレスと宝石1つを持ち去り、逮捕から3日後に店内にいた女性店員に返した。

 ロンドンの映画館で『 Free‐ The Final Stroke  後編 ‐』を4人と一緒に見た後に更生し、救助隊員として働いてる」渡された名刺には『救助隊員サム・ストロング 抹茶好き、Freeファン』と書かれていた。


 「密猟者『ストールン』(『盗む』の過去分詞)が広場をうろついている」元スリで41歳のターナーが小声で言い、食料や水が入った段ボール箱を持って通りへと向かう。雪で埋まった車内にいた40代の母親が窓を開け、サムに向かって手を振る。

 「水とブルーベリー入りのパン、イチゴに振るカイロだ」「ありがとうございます」母親はパンとイチゴを7歳と3歳の娘に渡し、冷えた手をカイロで温めた。

 

 亮介と美月も燈子と一緒に雪かきをしながら、雪で動けず車内にいる運転手たちに振るカイロや湯気の立つレモネードやトマトなどを渡し、段ボール箱をフードバンクや倉庫内に入れた。

 


 「ありがとう」レモネードを飲み終えた運転手たちがトラック内から二人に嬉しそうな笑みを見せ、ジェームズのバンダナ屋や文房具店へと向かった。サムから黒い手袋を渡された亮介は美月と一緒にターナーたちに手を振り、ホテルへと戻る。


 シャワーを浴び終えて厚手のシャツに紺のベストとズボンに着替えると、直美が「おかえり。太いバラの木が凍ってた」とデジカメの写真を見せてきた。「カチカチになってる」と驚く美月。

 「ローズガーデンでもバラが何本も凍って、パンやブルーベリーも手に入りにくいとサムさんが言ってたぞ」亮介は直美の肩に手を置きながら、小声で言った。

 


 

       


 

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