翔との再会と二人の女児
昼12時。亮介は時計店から壁時計を盗もうとした30代で180センチの男を店の前で取り押さえていた。怒鳴りながら逃げようとする男をボルダリングで鍛えた腕力で地面に座り込ませ、壁時計をケースの中に戻す。
「ありがとう、亮介さん」ルークの祖父で店主のクロウが亮介に満面の笑みを見せ、「持って行ってくれ」と銀と紺色の腕時計を紙袋に入れて渡した。
校内でレオナルドたちとの英会話を終えた凛と一緒に大通りを歩いていると、紺のダウンコートと黒いズボン姿の男の子が亮介の肩をポンとたたき「亮介先生、凛」と小声で言った。
「釧路翔⁉」と驚く二人に「瀕死だったんですけど、救助隊員の方が湯気の立つレモネードを飲ませてくれて助かったんです」と笑みを見せる翔。亮介は「おかえり」と涙を拭いながら石畳の上に座り込み、凛は「ごめん」と深く頭を下げた。
「タルトはどう過ごしてます?」と翔に聞かれ「ドラムの音で起こされてるぞ」と言うとスマホの画面に『紫いもタルト』のライブハウスにいるタルトが映る。
「タルト。元気にしてたんだな」タルトは驚きながら「ア―――!!!翔―――!!!」と絶叫し、翔と一緒に『FeedA』を熱唱した。
噴水の前で背中から血を流して号泣している1歳の女の子を凛が見つけ、駆け寄った。テムズ川でタバコをビニール袋に入れていたロンドン警察署・虐待撲滅課のアリゲーターガー・サラザールが細く伸びた口を使い、「痛かったよな」と小声で言い、女の子の背中に包帯を巻く。
翔にゴールデンレトリーバーのぬいぐるみを渡され、泣き止んだ女の子をローズが抱きしめ『リズ』という名前をつける。アリシアにベージュのパーカーと白の冬用ブーツを着せてもらったリズは凛や亮介たちにも「えへへへへ」と嬉しそうな笑みを見せた。
サラザールが「子どもが亡くなる事件が多い‼親と交際相手の暴力や、車内での熱中症!!!」と大声で言うと、「勇樹さんたちと、子どもの置き去り・暴行防止動画付きのステッカー作りをしましょう」とホホジロザメのヘレナが答えた。
―――午後2時。亮介たちは睦月のカフェ&バーで豆腐のみそ汁やトマトとチーズ入りのピッツアなどを食べていた。「明日は地面が滑りやすくなるらしい」と睦月が言い、グリントとカトリーナにみそ汁を渡す。
ジョリーがトイレの入り口に置かれた黒いビニール袋を開ける音と、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。
ラジオ局『young flowers』の2階で、ビニール袋から出された茶髪に水色の目の赤ちゃんが大声で泣いていた。亮介はリュックサックから直美が4歳の時に着用した水色のパーカーを出して着せ、プラムが薄黄色の靴下を足にはかせる。赤ちゃんは女の子で、『ベラ』と名付けられた。
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