元『ガンナイフ』の男とミツバチ
黒いダウンコートを着た35歳で元『ガンナイフ』の木原聡明がベージュの短髪に青い目の養蜂家エドワードと一緒にハチミツを巣から取り出していると、1匹が
聡明の顔の前に来た。「300匹のミツバチが集めたミツだ」とエドワード。オレンジ色のハチミツは指につけてなめると、甘みと粘りがある。
「俺は35年間、何やってたんだ。恥ずかしい」「養蜂家になってみないか?」と湯気の立つ抹茶を飲みながら、手を温めて言うエドワード。
「え?」驚く聡明だが、「このハチミツは僕が18歳の時から作り続けているもので、抹茶カフェや茶摘さんの紅茶店でも使われている。一緒に作ってくれ」と頭を下げられ、少し考えてから「はい!」と答えた。
「ありがとう」エドワードは聡明と握手して満面の笑みを見せてから、店内にいた
10代で常連客の女性二人に「いらっしゃいませ。ご来店、ありがとうございます」と深く頭を下げる。
「エドワードさん、オレンジ色のハチミツってありますか?」「はい」とエドワードがショーケースから出した4つのビンを、聡明が新聞紙で包み渡すと「ありがとうございます‼」と手を振りながら広場へと入っていった。
ハチたちが足につけて集めてきたミツを巣から取り、ビンに入れてフタを閉める。貼られたベージュの紙には、テムズ川と時計塔ビッグベンが描かれていた。
―――午後1時。プラムは広場で美月とアリシアに「『ラジオ放送で聴きたい話』ってありますか?」と聞き、「うーん。『ポアロとベイリーの散歩』?」と美月、「『ストリートダンスと音楽』です」とアリシアが答えた。
「ポアロとベイリーは、『young flowers』に来る小中学生や高校生たちを満面の笑みにさせてるんです」とアリシア、「飼い主のベンくんとの散歩では『行きたくなーい』ってなるらしいです」とプラムが美月に言い、『ポアロとベイリーの散歩』についてラジオで放送されることになった。
―――水曜日、昼12時。『young flowers』の1階にはポアロとベイリー、飼い主のベンが来ていた。2匹はベンのひざの上であくびをしながらプラムとローズを見ている。
ベンは2匹をなでながら「ポアロとベイリーは、母犬のエミリーと一緒に保護されて印刷屋に来ました。
親や交際相手に蹴られたり暴言を吐かれたことのある小中学生や高校生たちが困っていることを広場でも聞き、なでられるのが好きなんです」と二人に笑みを見せた。
広場でリードを着けて散歩させようとすると、「行きたくなーい」と地面に座り込んで鳴き出したが、ベンチに座って本を読む亮介を見るとしっぽを回して顔をなめ始めた。
「ポアロ、ベイリー」亮介になでられ嬉しそうな2匹に、「俺とも散歩して」と心の中で言った。
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