ビッグベン家と時計職人


 オネストは時計店の1階でブライトの腕時計を修理していた。黒い針2本を入れてフタとネジを閉め、古くなっていた2本を机の上に置いてから「修理が終わりました」とブライトに渡す。紺の腕時計の針はカチカチと音を立てている。

 「ありがとう」ブライトはオネストに笑みを見せ、恋人で27歳の女性教師イザベルとサンドウィッチを持ってローズガーデンに向かった。


 「オネスト」抹茶カフェの店員で恋人のオリヴィアが、レモネードを入れたカップとスコーンを乗せた皿を空いている机の上に置いた。一緒に湯気の立つレモネードを飲みながら新聞を読んでいると、クロウ・ビッグベンが入って来た。


 「オネスト。お前がワシの店で時計職人として働き始め、修理の丁寧さに驚かされている。ビッグベン家は300年、ウィンザー城の衛兵やロンドン市民向けの時計を作り続けてきたが、オネストが修理すると長く使える」

 オネストは「抹茶カフェに来た時に、掛け時計も修理してくれたもんね」と嬉しそうな笑みを見せるオリヴィアのほおに唇をつけた。



 ロンドン警察署の制服を着た美月が紅茶店のメンフクロウ、ライムを肩に乗せて広場内で密猟者と不審な黒いテントに対する注意を呼びかけているとテムズ川の周りに点在する倉庫のほうから「寒い‼」と言う大声が聞こえた。

 近づこうとすると「交際している男性と一緒に、中学・高校生の息子や娘を金属の板やハンマーで殴った女性たちだ」とサラザール、「倉庫から出した後にウィンザー城の女性衛兵としてエドワードさんたちと過ごさせる」とアオウミガメのフォードが小声で美月に言い、倉庫のほうをちらりと見た。

 

 ―――3日後。ふらふらになりながら出てきた5人に、フォードが万歩計を渡す。

「この万歩計を腰につけていると、暴言が出そうになった時に倉庫の周りやケーキ店、本屋の前などを9000歩歩かされ、ウィンザー城前に戻る」とフォード。

 5人は万歩計を腰につけ、衛兵の制服を着てエドワードや先輩女性衛兵たちの前に立った。馬の乗り方や災害時の救出活動、城に入ろうとする不審者の拘束などを4時間かけてノートに書き、衛兵たちと練習し続けた。

 

 広場へ入ると、ライムが首を回しながら翼で美月の肩をたたいた。清一が「美月さん!ゴージャスの母で46歳の『ミーン』と『赤ワイン』、ほおに刺青を入れた女性『リッチ』も密猟者の一員だと判明しました。気を付けて!」と小声で言い、ロンドン警察署の1階へ向かった。


 ホテルに戻ると、亮介と直美が「おかえり」と笑みを見せた。「清一さんから、メモを預かってる」亮介が机の上に置いたメモには『リズはラジオ局や広場でアリシアさんやフランクさんに抱っこされ、嬉しそうな笑みを見せています』と書かれていた。


 

 



 



 



 

        


 


 




 










 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る