ローズガーデンでの写生会
翌日、朝10時。チェリーはライスと一緒に手をつないでローズガーデンへと向かっていた。「クロエは俺のこと、いつも『紺ちゃん』って呼ぶ」噴き出すチェリーにほっとしながらローズガーデンの入り口に来ると、ブライトが「チェリー!」と絶叫し駆け寄る。
「ライス。昨日『チェリーちゃんを美容院の階段前で見つけました』って電話が来て、美術室にいた子たちと一緒に歓喜したよ。ありがとう」「勇樹さんやローズさんたちも、ほっとしてました。
チェリー、バラの絵が描き上がったら俺にも見せて」「うん」ライスはブライトに一礼し、クロエと一緒に大通りへと入っていった。
「ブライト先生。ごめんなさい」チェリーの肩をポンとたたき、「勇樹さんや惇くんも、バラを描いてる」と笑みを見せるブライト。
「こんにちは」「こんにちは。今日はよろしく、チェリー」勇樹と惇はリュックサックからスケッチブックと筆を出し、チェリーに渡した。
チェリーはローズガーデン内に咲いた400本のバラを見ながら勇樹の隣に座ってスケッチブックを芝生の上に置き、筆にペンキをつけて赤色の一本を描き始める。勇樹が細い筆2本と赤いペンキを使い描くバラに「わあ」という声が出た。
「チェリーのバラは、花びらの一枚一枚、茎の一本一本を大きく描いて見た人を驚かせる」と勇樹。チェリーは嬉しそうに「ありがとうございます」と答え、サーモンとトマト入りサンドウィッチを食べた。
亮介と一緒にローズガーデン内を散歩していたオータムが、芝生の上でごろんと仰向けになった。「オータム!」チェリーがあごをなでると、彼女の肩を足でポンとたたく。亮介はベンチに座り、本を読み始める。
勇樹がスケッチブックに描き終えたオータムの絵に、赤いバラを描いていた日本人美大生の惇が「すごい」と小声で言う。赤いバラの前で仰向けになり、しっぽを回しながら寝ているオータムが描かれていた。
―――夜10時。ロンドン警察署には陽太とライス、賢哉やヨウムの大福たちが集まっていた。「子どもの行方不明事件が多いです。チェリーの幼なじみで12歳のルーシーも1年前の10月、大通りで姿を消してから見つからないんです」とライス。
陽太も「親やその同居相手によるけがも多く、母と交際相手の男性がいる自宅を出てラジオ局『young flowers』に避難して来た11歳の女の子の腕に包帯を巻き終えた救急隊員が、疲労で倒れました」とため息をつきながら言う。
「20代から70代の男20人による連れ去り事件が相次ぎ、不審なテントが広場内に置かれている」とバンダナ店店主のジェームズが抹茶を飲みながら小声で言い、大福も「通学路や人が多い通りなどで、子どもを連れ去ろうとする人も多いなあ」と答えた。
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