『熱湯女』と『揺さぶり男』、失神
「俺と美月の娘に何しやがる‼」激高した亮介の絶叫が響き、『赤ワイン』が「アレックスに対する怒りが消えたわ。ははははは!」と笑う。
「直美ちゃん!」慌てて走って来たタカユキが、直美を抱きかかえてカフェ&バーの2階へと運んでいった。
美月はジョリーから渡された銀色の盾を首にかけ、バールを持った『赤ワイン』に体当たりした。バケツで腰を強打した『赤ワイン』に「直美や他の子を殴らないで‼」と絶叫すると、アレックスが泣き出した。
アレックスとリズに向かって怒鳴った『揺さぶり男』の腕を、『ロンドン警察署・見回り課』と書かれた名札をつけたゴンズイ・マーティンが背ビレで軽くたたく。
背ビレに入っていた毒で腕が赤く腫れ上がった『揺さぶり男』は「ああ―――‼」と絶叫し逃げようとするが、屋根に積もっていた雪が腰を直撃し転倒、腰と腕の骨2本が折れ失神した。
タバコを吸いながら広場をうろついていた『熱湯女』に向かってホホジロザメ・ヘレナの歯2本が飛び、ジーンズを貫通して腰に刺さった。「私の歯は、一度刺さると死ぬまで抜けない」と冷ややかな声で言うヘレナ。『熱湯女』はマンホール内に転落し失神、『揺さぶり男』と一緒に弥生と亮介によって手錠をかけられ、ロンドン警察署に入った。
「ごめんね」美月がアレックスの肩に手を置き、タオルを渡すと「ありがとう」と満面の笑みを見せた。
直美はカフェ兼バーの2階で体を起こし、ジョニーに手を握られているのに気づいた。「直美!『赤ワイン』が逮捕されたって」ジョニーは小声で言ってから、直美に嬉しそうな笑みを見せた。直美の手を温めてくれていたらしい。
階段を上がり入って来たタカユキが「おー、直美ちゃん。オトンとオカンが奮戦してたで」と言いながら直美の肩をポンとたたく。「タカユキさん、ジョニー。ありがとう」直美は湯気の立つ抹茶を飲み終え、二人に笑みを見せた。
睦月は1階でカップにミネストローネを入れ終え、「おーい美奈。スプーン出してくれ」と次女を呼んでいる。
「寒くなってきた」と小声で言う亮介と『赤ワイン』との激闘を終えた美月が1階に入ると、睦月が湯気の立つカップを渡す。
黒髪を肩まで伸ばし、ベージュのエプロンを着けた12歳の女の子、天原美奈が「亮介先生、美月先生、スプーンお持ちしました」と破顔した。
驚く二人に「俺と妻で警察官の弥生は、美奈の養父母だ。長女で14歳の夏とも親しく、ロンドンの学校でサラや惇たちと一緒にダンスをやってる」と説明する睦月。
「元気にしてた?」と美月に聞かれ、「はい。お父さんとミネストローネや果物の果汁だけを使ったジュースを作ったり、美容院に行きます」と嬉しそうに答える美奈は温泉小にいた時よりも笑うことが増えた。
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