夢見る少女


望月透(もちづき とおる)



僕のただ一人の兄であり、年が13歳離れている。



出来の良い兄貴は性格も良くて、誰からも好かれている。



小さい頃から両親の熱い期待にも応え続けたし、親孝行で国立を出て医者になった。



ちなみに言うと、祖父が医者で病院経営をしており、その後を継ぐとかなんとかで有望視されている。



僕とは大違いで、僕なんかはいつもただのおまけみたいなもん。



そんなのは小さい頃からわかっていた。


僕はただかわいければいい。


マスコット的な存在であればいい。


だけど、駄目すぎてもいけない。



ま、そんな感じだ。



どうせ運動会の駆けっこで一等を取ったって、リレーの選手になってアンカー走ったって、誰の記憶にも残らない。


だって兄貴もそうだったから。


兄貴もいつも一番だったから。


どうしたって必然的に僕は二番になっちゃうんだよ。



生まれたのは兄貴の方が早いんだから。




「卓」




深夜。



誰も居ない病院の廊下の待合室。



四角い椅子に座ってそんなことをぼんやり考えていると、兄貴が診察室のドアの隙間から、にょきっと顔を出した。



大欠伸しながら、目線だけで応える。



「ちょっと…」



ちょいちょい、と手を招く。



「何?死んじゃったの?」



「ばっ」



僕の不吉な発言に、兄貴は顔をしかめた。



「ばか!お前、そんなこというもんじゃないぞ。」



「じゃ、助かったわけ?」



悪びれる様子もなく、僕はもう一度欠伸をした。



「…まーな。ただ…」



近づいた僕を、兄貴はドアを広げて招き入れる。



そして、ベットに寝かされている、未だ意識の戻らない白銀の髪の少女を指差した。



ぐるぐると包帯に巻かれたあとが、痛々しく服の隙間から見え隠れしている。



緑色の前開きの服が、ただでさえ細い身体を更に寒々しく見せた。



気が動転していて(というより、見たくなくて)今までちゃんと見ていなかったが、目を閉じている今でも、彼女がかなりの美少女であることが窺える。



「……人間離れしている美しさ、だろ?」



じっと彼女を見つめる僕の脇で、兄貴が呟くように訊ねた。



「……」



僕は無言で頷く。



こんなに間近で見ているのに、およそ欠陥というものが見当たらない。




「ほんと、人間じゃないみたいなんだよな」



僕が羨む長身をかがませて、腕組みしながら兄貴が少女を観察する。


黒髪がサラリと揺れる兄貴は、弟の僕が言うのもなんだが、顔立ちも整ってる。


こんな生真面目な性格じゃなければ、女だって選びたい放題だろうと思う。


13も違うから、兄貴が学生生活を送っている時どうだったとかは、よく知らないんだけどきっとモテたに違いない。


いつの間にか少女から視線を外し兄貴を見つめていた僕は、ふとこちらに顔を向けた兄貴とばっちり目が合ってしまった。



「卓、俺の話、聴いてる?」



怪訝な顔をして、僕を見る兄貴に首を傾げる。



「…へ?」



僕の間の抜けた返事に、兄貴がはぁ、と溜め息を吐いた。



「…だから、人間じゃないみたいって話。」



「………だって、それ、冗談だろ?」



益々首を傾げる僕に、兄貴は気まずそうな顔をする。


「……冗談で、瀕死の患者を前に…そんなこと言わないよ」




「はは、だって、兄貴。これ、確かに美人だけどよ、どーみたって、人間以外には見えないぜ?足も付いてるし。」




呆れたように笑って、『これ』、つまり少女を指差した。



兄貴は難しい顔をして頷いた。



「そうなんだよな…。でもな、皮膚の再生能力が赤ちゃん並みに、いやそれ以上あるんだ。恐らく命に関わるような深い傷を負っていた筈なんだけど…数分経つごとに薄くなる。ただ…」



「ただ?」



「…背中の右肩部分にあるえぐられたような一番ひどい傷口だけが、どす黒い毒みたいなものに侵されていて、その部分は良くならないみたいだ…一応できる限り見えるものは除いておいたんだけど、かなり強い毒で、触れた器具は溶けた。…今晩がヤマだな。」




「でもさっき助かったって…」




「即死は免れた。でも、実際は生きているのが奇跡に近いほどの大怪我なんだ。」




そう言うと、もう一度同じ言葉を繰り返す。




「だから、人間じゃないみたいだって言ったんだよ。普通の人間ならとっくに息絶えていてもおかしくないと思う。まして、こんなか細い女の子は。」



兄貴は椅子に深く座り込むと、うーん、と唸った。



「一体、どういったことに巻き込まれてこんなことになったんだか…」



そんな兄貴を横目に僕は部屋の時計を確認した。



午前0時を過ぎている。



「じゃ僕兄貴ん家に帰ってるからさ、あとよろしくね。」



右手でお願いと拝みながら、左手は家の鍵をくださいと掌を見せた。



「は?」



兄貴は目を丸くして驚いたように僕を見る。



「お前……逃げるつもりだろうけど、許さないからな。元はと言えばお前が公園に寄り道なんかしてるからこんな面倒なことになったんだろ?真っ直ぐ家に帰れば良いものを…」



やばい、お説教が始まる気配がする。


兄貴は真面目だから、こういったことにスイッチが入ると、とことん長い。




「わ、わかった、そうだよね。うん。悪かったよ、兄貴。もうしないから。」




早いうちに謝っといた方が、得策だ。



僕は左手を右手に合わせて物分りの良いフリをした。



だが。



「よし、まぁ、わかっているならいい。で、俺は今から上の休憩室で仮眠を取るから、卓はこの子についててやってな。」



「は!?」



一瞬の内に、物分りの良い弟、崩れ去る。



「いやいやいや、それはないっしょ!?何かあっても僕じゃ対応できないし。」



そんな最悪な係は絶対に嫌だ。



僕はぶんぶんと首を振る。



「上に居るんだから、俺を呼べばいいだろ」



何言ってんだとばかりに、兄貴は片眉だけ上げて呆れたように俺を見た。




「そういう問題じゃ…」




「ふあーあ。じゃ、よろしくなぁ」




僕の必死の訴えを、椅子から立ち上がった兄貴は大欠伸ひとつで退けた。



しかも伸びをしながら。




「ちょっと待っ…」




何かを伝える前に、診察室のドアがばたんと閉まった。



「マジかよ…」



引き止めようと兄貴に向かって伸ばしかけた手を戻して、自分の額に当ててがっくりと項垂れる。



今しがた兄貴が座っていた椅子に座ると、ギッと軋む音がした。



反対向きに跨るようにして、背もたれに頬杖をつく。



そこから元凶をじっと見つめた。



ちょっと目が悪くてはっきりと見えない。



「はぁー」



誰も聞いていないのを良い事に、盛大に溜め息を吐くと、タイヤ付きの回転椅子をコロコロと転がして、少女が横たわるベットに近づいた。



透き通るような肌。


蛍光灯の光の下では、青くすら見える白銀の髪。


死んだように眠る彼女は、さっきから確信しているように、かなり美しい。



確かに、人間とは違うのかもしれない。


そう思わずにはいられない。



技師が帰っちゃったから、今日の所はレントゲンもMRIもCTも撮れなかったみたいだけど、


要は、背中以外の傷は自力で治っちゃったみたいだから必要なかったんだろう。



あ、でも頭打ってるかもしれないからそっちは必要か。それは明日かな。もう0時を過ぎたから今日か。



それとも理由ありだから撮れないのかな。保険きかないと高いもんな。この子、払えそうにないし。



背中の方は何の毒かもわからないんだから、傷口洗浄して、後は本人の気力に任せるって所かな。



とにかく、あの兄貴が眠るくらいなんだから、手は尽くしたはずだ。



きっと僕と同い年くらいだと思う。


一体彼女に何があったのか。



「とりあえず、目、覚ましたら?」



少しの八つ当たりを籠めて、ちょっと冷たく言ってみる。


勿論、彼女は反応を示さない。



それどころか、時折、苦しそうに顔を歪める。




「大丈夫なのかな。」



彼女以外、自分だけしかこの空間に居ない事実に、急に心細くなる。



「暑い…かな」



僕なりに気を利かせて、エアコンのリモコンを探してみる。


兄貴は物を使ったら元の場所にきっちりと仕舞うタイプだ。


すぐに見つかった。


設定を下げると、またさっきと同じように椅子に座って少女の顔を見つめた。



つーか、ちょっと僕も眠くなってきた。



瞼が重たく圧し掛かる。


あーあ、帰ったらゲーム三昧しようと思ってたのに。


だけどあのボス倒すまでにもうちょっとHPあげなきゃすぐに死んじゃうから、レベル上げに専念しなきゃな段階なんだよな。


そういや、予備校からもいくつか宿題出てたな。


明日も行かなきゃならないのかー。めんどくせー。


つーか、この子どうしたらいいんだろう。


いっそ兄貴に黙って帰るか。


家には屋根から登って部屋の窓から入れば良い。


なんて名案だろう。



よし、決めた。



僕は心の中で自分に掛け声をかけて椅子から勢いよく立ち上がる。




「許さない!!!!!!!!!」




足に力をこめた瞬間に響いた大きな声に驚いた僕は姿勢を崩し、椅子を蹴飛ばしてすっ転んだ。



いってぇー。



腰を打ったらしい。



思わずさすりながら、顔をしかめて声の主を見た。



ベットにがばっと起き上がった白銀の髪の少女。



公園の中にある小山のてっぺんでも聞いた台詞を、今彼女は息を切らして叫んだ。



悪い夢でも見ていたかのように、それとも容態が悪いせいか、ぜぇぜぇと荒い息をして。



でもそんなこと、どうでもよくて。



床に尻餅をついた無様な格好のままで、僕はただただ、彼女に見惚れていた。



外人か、とは思っていたけど―



今の自分の状況を把握できずに、呆然と真っ白な壁を見つめる彼女の開かれた目は、



僕が想像していたものよりも、そして、今まで見たことのある外人という外人の瞳よりもずっと深い青で。



見る人を虜にするような綺麗さだった。



吸い込まれるようなっていうのはきっと、こういう目のことを言うんだなと、頭の隅で納得した。




「…ここ…どこ…?…!っつぅ…」




当然の疑問を口にした彼女は、自分の全身に纏わりついている筈の痛みに気づき、顔をしかめた。



石のように動けなくなっていた僕も、それで弾かれたように立ち上がった。




「だ、だいじょうぶ?」




ひっくり返った椅子はそのままに、彼女の傍に近寄って、そっと声を掛けた。



誰もいないと思っていたのか、僕の存在にびくっと肩を震わせると、恐る恐る彼女はこちらを見た。



「…………」



そして、かなり怪訝な顔をして―



「あんた、誰?」



命の恩人に対して大分失礼な態度を取った。



さらに言わせてもらうなら、完璧な日本語だった。


「…ここは、病院だよ。僕は君が怪我しているのを見つけて連れてきてあげたんだよ。」




多少ムッとしたので、この際美人なんてことは忘れて、僕の立場ははっきりと恩着せがましく伝えたい。




しかし、眉間に皺を寄せ、細められている彼女の目は、僕の言葉を聞いてもなお元に戻らない。



「…びょういん…って何?」



は?



今度は僕が怪訝な顔をする番だ。



「君…わからないの?病院っていうのは、怪我をしたり具合が悪い人が医者に治療してもらうところだよ。」



今時病院の意味を説明しなくちゃならない場面に出くわすなんてないと思っていたけど。


小さい子だってきっと知っているだろう。


注射をされたり、苦い薬を飲ませられたり、冷たい聴診器を当てられたりする嫌な場所だってことを。



もしかしたら日本語ぺらぺらだけど病院のない国に住んでいる外人で、来日したばっかとか?



そこまで思考が彷徨ったところで、彼女があぁ、と小さく頷いた。



「治癒院のことか…」



いやいや、どこだよそれ。




「治癒院はあたしには必要ないの。自力で治せるから。ここは?灼熱の国の治癒院なの?あたしの服どこやったの?」



ワケの分からない事をマシンガントークで訊いてくる彼女に僕は狼狽する。



「服…は、怪我して血で汚れていたのと、ぼろぼろだったのとで、多分、、着替えさせて捨てちゃったんじゃないかと思います…」



強いて分かる質問に、何故か敬語で答える僕。



「はぁ?あれ、お気に入りだったのにぃ」



くやしー、と今晩が山な筈の瀕死の患者は騒ぐ。



「く、それにしても背中が痛むわ。でもこんなところで油売ってる場合じゃないのよね。一刻も早く温度師を追わないと…」



ぶつぶつ呟いたかと思うと、すぐに両手を耳に当てて、



「左京?聞こえる?」



と言った。



あぁ。そうか。



僕は悟る。



この子、痛い子か。



夢みちゃってんのか。



うん、ないわ。



いくら美人でも、ないわ。その選択肢は。




強気で美人で妄想壁があるわけか。


僕はこっそり肩を落とした。


ベットの上の彼女も、僕と同時位に肩を落とした。



「駄目だ、、、聞こえない…」



思い悩むように一度俯くが、直ぐにこちらを向いた。



「ねぇ…ここ、どこ?」



さっきと同じ質問を、彼女は僕に訊ねた。



「だから病院って…」



「そうじゃなくて。」



ぴしゃり、彼女は急いでいるかのように僕の言葉を遮る。



「ここ、国の名前は?」



「え?…くっ、あはは」



あまりに真剣な顔をして言うので、噴き出してしまった。



痛い子か、生粋の日本語が上手い外人かのどちらかであることが確信に変わる。



拉致られて連れて来られない限りは、自分の降り立つ国が何処であるか皆知っているだろう。



待てよ、この子もしかして拉致られたのか?それならそれで大事だな。



それなら納得いきそうな気がする。



でもそれとわかると、ややこしいことに首を突っ込むことになりそうだ。



「何笑ったり、悩んだりしてんのよ。」



イライラを隠そうともせずに、彼女はややきつめの口調で僕を責めた。



「いや、だって…どこって…ここは、日本です…」



結局敬語のまま事実を伝える、駄目駄目な僕。



「に…ほん?それって国の名前なの?」



もう僕には彼女についていける自信がない。



一瞬宙を仰いだ僕の目に、午前3時を告げる時計の針が映る。



もうMRIで輪切りにしてもらいなよ、って喉まででかかってくる。



「あー、どうしよう。もう時間が無い。あんたの名前は?」



コキコキと首を鳴らし、腕をぐるぐる回し、自分のコンディションを確認しつつ彼女はさらに訊ねた。



「…望月…卓毅です…」



半ば可哀想なものを見るような目つきでそれを見ながら答える。



「モチヅキタクミ…長くてまどろっこしいわねぇ…クミ、あんた、クミでいいわね!」



―は?



僕の頭は完全に停止(ストップ)した。


なんで改名されたの?


いや改名じゃない。


省略されたんだ。


しかも、ヘンな所で。



なんで「タクミ」じゃ駄目だったんだろう。



どうして最後の二文字なんだろう。



ていうか、なんで呼び捨てされなきゃならないの?



自分の置かれている状況がイマイチ把握できない。




「クミ、あたしは右京。極寒の国の王、鳳凛(ホウリン)の下臣。よろしくね。」



ピョン、とベットから軽やかに僕の前に立つ右京と名乗った少女。



僕の名前は本人の返事を待たずして確定したらしい。



複雑な思いでいる僕が、差し出された手を受け取るのに躊躇していると、強引に掴まれた。



握られた手の氷のような冷たさに、反射的に自分のを引っ込めようとするが、見掛けに似合わず右京は力が強かった。




「早速本題に入るけど…あたし、王から鍵師捜索の任を仰せ付かっているの。けど温度師の策略のせいで崖から突き落とされて今に至るってわけ。だからこの国がどこかも、この国のシステムもよくわかんないの。けど一刻も早く鍵師を見つけないと、地球が滅んじゃうのよ!」



…えーと?



がっしりと掴まれた手はそのままに、目の前のおかしな言動をする本人を見つめる。



真剣そのものの眼差しに、内心恐怖とまではいかないが、少しの恐ろしさが募る。



だって、これ、本気で言っているとしたら、かなり夢見る少女ちゃん、だぜ?



記憶喪失かなんかで今までの記憶塗りかえられちゃっているのかな。



正直、今言ったことの99パーセントはわかんねぇ。



ただ、1パーセントわかったのは。




「地球が、滅びる?」




このワードだけ。



でも聞き間違いかもしれないから、確認の意を込めて訊き返した。



こっくりと、右京は頷く。



その顔つきは、冗談で言っているようには、残念だけど見えなかった。



だけど―



「別に、いいんじゃない?」



僕の口からはこれしかでてこないよ。


「え?」



戸惑いを含んだ声と共に、手を握る力が緩んだ。



それを軽く払って、僕は自分の片手を取り戻す。



「だから、別にいいんじゃない?って。」



少し痺れた右手をにぎにぎと動かしながら、僕は言った。



「地球が滅びるならそれでいいし、滅びないならそれでもいい。僕は今日が楽しければそれでいい。普通に過ごせればそれでいい。明日が来なくってもそれでいい。」



倒れたままだった椅子を、屈んで起こさせる。




「君もさ、よくわかんないけど、そんなことのために身体を傷つける必要なんかないんじゃない?もっと楽に考えてみたら?地球規模の問題なんか、今更どーにもならないでしょ?」




バシッ



ガコン!バン!



星が、散った。



どうやら起こしたばかりの椅子が、もう一度吹っ飛んだようだ。



僕と一緒に。




「馬鹿じゃないの?!」



憤りを顕にして、彼女は怒鳴った。



まじで、痛い。ひどいと思う。



頬を殴られたみたいだけど、それにしては僕は吹っ飛びすぎだと思う。



相手は女の子、なのに。



壁に叩き付けられて打った頭も、大分痛いし。



殴られた頬は、数秒経っただろう今でも、星をいくつか飛ばしている。



どうしてこんなツイてないんだ?


僕、なんかしたっけ?



「クミは大馬鹿だね!」



そしてこんな憐れな僕を、ここまで罵るこの人は一体。



鬼か。



鬼以外何者でもない。



ビリビリと痛む頬とガンガンする頭を抑えながら、僕は生まれてきたことを呪った。


「おーい、どうしたんだよー?っと、うわ…」



物音を聞きつけて目を覚ましたらしい兄貴が起きて来て、部屋の惨事を見ると絶句した。



僕は相変わらず頭がガンガンしているから、起き上がりたくても起き上がれない。言葉も発せないし発したくない。



むしろ目の前が真っ暗になってくれればいいのに、と思う。



そしてあわよくば、気絶している間に全てのややこしい出来事が解決していてくれたらと切に願った。



「…君、怪我は?起き上がって大丈夫なの?」



あぁ、兄貴。



僕は虚ろな目をしつつ、心の中で呼びかける。



そこにいる女はふつーの女じゃない。


人間じゃないという兄貴の見立ては正しかった。


美人だけど、おっかなくて気が強くてかなり怪力で、、、



そして―






夢見る少女ちゃん、だ。





兄貴の話はきっと通じないと思う―





そこまで念じると、僕は希望通り意識を失うことに成功した。

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