第42話 この世界の真実②
アランの頭の中に新たな画像が、映し出された。
――それは、彼の知る地球とは全く違う。人という存在が誕生する前の世界の光景。そこにはギザギザした葉っぱや荒々しい見た目をした大自然と、もう1つ。やはりあの、姿の見えない何者か達の喋り声があった。
「…………博士。今の状態では、人間のような生物は暮らしていけません。どうされますか?」
「ふむ。なら仕方あるまい。……人がダメなら、時が来るまで別の生物を作りだせばよかろう」
そうして、その声だけ聞こえる謎の者達は、見えない魔法のような力によって、徐々に徐々に巨大な生物を作り上げていくのだった。
――――あれって……まさか、恐竜!?
アランが気づいた時には、その世界に尖った牙や大きな顎、長い首に丈夫な角などを持った大きな獣達──すなわち恐竜が溢れていた。
――――こうして、恐竜の時代が始まったわけか…………。
アランが、恐竜達の世界の様子をまるで神になったかのような感じで眺めていると、また何処かから謎の存在の声が聞こえてくる。
「…………博士! ようやく知的生命体が活動できる環境が整いましたぁ!」
「ふむ。よしっ! では、今ある世界を一度終わらせるぞ!」
「了解しました!」
彼らのその掛け声とともに、空から巨大な岩石の塊が落下してきた。
――凄まじい衝突音と共に、その世界の雰囲気や環境は、一気に様変わりした。それまでの荒々しい見た目をした暖かくて過ごしやすそうな環境は崩壊し、世界はとてつもない冷気に包まれた。
あれほど激しく世界中を駆け回っていた恐竜達は、瞬く間に絶滅していき、そのうち世界は、最初の頃の寂しい状態に戻っていた。
――――こんな、あっけなく……終わっちまうなんて…………。
アランは、なんだかどうしようもないショックと絶望で心を撃たれてしまった。
しかし、彼がそうやって絶望している事など関係なしに、見えない者達は更なる会話を始めた。
「…………次の段階に進むぞ。君達、準備を始めるのだ!」
見えない者達の中の1人、年老いた老人のような声をした――「博士」と呼ばれていたであろう者がそう言うとすぐに、世界の姿は大きく変わっていった。
――――なんだ? これは?
アランが見ているその世界は、彼の知るモノと大きく異なっていた。
そこには、大きくて太い幹に丸い葉っぱを持った木が沢山生えていて、他にも地面からは沢山の草が辺り一面に生えていた。まるで世界の全てが森となったかのようにそんな雄大な大自然が広がっていた。
――そして、その自然のあふれる世界の中に、ぽつ……ぽつと見た事のない2足歩行の巨大な存在が歩いている。
――――あれって……北欧神話なんかに出てくる巨人だよな?
アランは、その巨大な者達の存在に驚きを隠せないでいた。――彼らは皆、東京スカイツリー位の身長をしていて、その巨体ゆえかとてもゆっくり大股で歩いていた。喋り声も野太くて、もそもそしていて、聞き取りずらい。
彼らの生活は、見ているとまるで肉食動物に追われていない時の平凡でのんびりした草食動物のようにゆったりしていて、いつまで経ってもその生活感や雰囲気は、変わらないまま。
――――なんだか、のんびりしているなぁ。
アランがそう思っていると、またしても何処からともなく姿の見えない者達の声が聞こえてくる。
「…………博士、彼らは進化するには流石に知能が低すぎます。準備が整いましたので、次の段階へと…………」
「ふむ。…………よしっ! それじゃあ、第三世界プロジェクトを開始しよう!」
博士と呼ばれたその老人の言葉と共に「巨人」の世界は終わりを迎えていった。巨人たちは、さっきまでの平穏がまるで嘘のように瞬く間に滅んでいく。
――そして、世界は次の段階へと進むのだった。
次なる世界は、先程存在していた巨人達の半分位までサイズが縮んだが、その代わりにさっきの巨人達よりも歩くスピードが速く、言葉もなんだかスムーズに聞こえてきた。
「博士…………この生物達とさっきの巨人達は、見た目がそんなに変わっていないような気もしますが……一体、どの辺が変化したのでしょうか?」
見えない者達の会話が聞こえてくる。
「…………何!? 君は、分かっていないのかね? さっきの巨人と今いるこの超人の違いが?」
「…………えーっと、はい。その……分かりません…………」
「…………全く、君という人は……。本当にダメな奴だ。…………良いかね? 彼ら超人は、前にいた巨人達と違って頭が良い。それに、死なないのだよ! 分かるかね? 死なない生物の誕生だよ! きっと彼らが、いつか我々の領域に辿りつくはずだ!」
――――我々の領域……?
アランが、博士の言ったセリフに疑問を覚えていると、すぐに彼らの会話の雰囲気が変化した。
「…………大変です! 博士。このまま行くと、2万年後には大戦争が起こって、この世界は滅んでしまいます!」
「…………なっ、なんだって!?」
その者が言った通り、少し経つとその世界で大きな戦争が始まった。――博士が「超人」と言っていたその死なない巨人達は、死なない事を良い事に様々な手段で相手を苦しめ合うようになった。……巨大な兵器を開発する者やさっきまでアランが使っていたようなものとは比較にならない程、スケールの大きい魔法を駆使する者など…………。彼らの争いは、時が進むごとに激しさを増していき、しまいには、とうとう「死なない体」を持っていたはずの彼らは、自分達の存在そのものを消す魔法を作り上げ、お互いに消し合うようになった。
――そして、世界はまた静かで寂しい空間へと変わっていった。
見えない者達の会話が聞こえてくる。
「…………超人が、ダメとなると……こうなったらやれる事は1つしかありません」
「…………うむ。そうじゃな。もうだいぶ人が住むのに適した環境になってきたわけだし、そろそろここいらで、人の血を混ぜてみるか……」
博士がそう言うと、他の者達は大きな声で返事をし、またしても新たな生物を作りだすのだった。
――――これで、何回目だよ…………。
アランが、呆れた声でそう言った次の瞬間、彼の前に広がる世界の景色は、またしても違ったものに変化していた。
――――なんか、さっきまで沢山生えていたはずの大きな木々が減ったな……岩が増えてきて、その影響か……建物が増えてきたな。
アランが言った通り、その世界は岩でできた神殿のような形をした建物や小さい家のようなものが多く建っていた。
――そして、そんな小さい家が出始めた事もあってか、その世界に住む者達の身長は、それまでの巨人や超人に比べてはるかに小さな、せいぜい3,4メートル程度のものとなっており、また……少しずつだがその姿は何処か今の自分達人間に近い姿をしているようにも見えた。
――――石でできた武器まで持ってる。……服もなんだか古代ギリシャを想起させるような布を纏っているし……なんだか、巨人の世界からここまでずっと神話の世界を見ているようだなぁ。
――――――しかし、アランが感心していると、すぐにその文明も滅んでいった。
今度の原因は、見えない博士達が生物を作る時に物凄いミスを犯したかららしい。――彼らの会話が聞こえてくる。
「…………君! 何をしているのだね! この超人と人のハーフ種は、決められた配列通りに遺伝子を組んでやらないと、遺伝子が暴走して全く違う生物が誕生してしまう恐れがあるんだ! 君のせいで、目が1つしかない化け物とか、逆に目が100個ある化け物とか……上半身が牛で下半身が人とか、馬の下半身と人の上半身持ってる奴とか…………もうわけが分からない事になってしまったじゃないか!」
「すっ、すいません」
「…………はぁ。これじゃあ、また最初からやりなおしだ」
博士がそう言うと、その世界もすぐに滅びが訪れた。
――彼らは、真面目なトーンで世界が滅び、生きている者達が悲鳴を上げている中、会話をし始めた。
「…………これで、もう滅びの時を迎えたのは4回目だ。このままじゃ、我々の進化に辿り着ける生物が誕生しないまま、地球は終わってしまうぞ」
「…………それなんですが博士。そろそろ、人の時代が来ても良いと私は考えておりまして……」
「…………人単体でのか?」
「はい。…………空気の割合や気温もかなり安定してきましたし、何より人の血を混ぜたハーフ超人のおかげで人間という新種投入のためのデータも十分取れました」
見えない者達の中の1人がそう言うと、博士は「うーん」と唸るような声でそう言い、しばらく黙った。
――――――――そして、博士は言った。
「…………よし。じゃあ、人間を投入しよう。…………といっても、巨人や超人達のように最初からいきなり「人間」として出すのはやめよう。…………良いか? 最初は、猿として数万年の間置いとくんじゃ。それで、時が経って彼らが本当にふさわしいと判断できたら、ゆっくりと人へ進化させていくんじゃ。…………良いな?」
博士が言い終わると、他の者達は「はい!」と大きく返事をし、そして新たな生物種――通称「ヒトザル」を誕生させたのだった。
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