第43話 その頃……。

           ~一方その頃~



 大きな化け物が、真っ二つになった死体のある洞窟の中、鼻が曲がってしまう程の強烈な死臭がしだしたその時、ダスティンは気づいた。



「…………どういう事だ」



 彼は顔をあちこちに向けて、さっきまで目の前にいたはずの男――アランの事を探していた。――どうしてだか、話をしていたはずだというのに……そこにはもう……彼の姿はない。




 ――――この一瞬の間に、なぜ?




 彼の気配は、完全に消えていて、ダスティンは、きょろきょろと辺りを見渡した。






 すると、彼は地面にあるものが存在していた事に気づく…………。





 ――――足跡。



 見た感じ、大小。大人と子供の両方が歩いていたであろう痕跡がそこには残っていた。


 ……ダンジョンの奥へと続いているだと!?




 ダスティンは、その足跡が暗闇で完全に見えなくなる所まで目で追い続けた。


 ――――どういう事だ。足跡があるという事は、瞬間移動のようなものではないはずだが……。


彼は、しばらくジーっとその足跡を見つめ続けた。そして、目線を外したその瞬間、ダスティンの頭の中で1つの結論が導き出された。






 ――――おそらく、この場にあのメスガキとアランがいないとすれば……奴らは、何らかの手段を使ってダンジョンの最奥へと向かって行ったのだろう。


 ――――そして、このまま奴らが先に最奥へたどり着いてしまえば、もしかしたら……いや、あくまでこういう仕事を何度もこなしてきた自分の勘でしかないが…………もう奴を、アランの事を殺せなくなる。そんな気がする。まずい。……奴を、奴をここで殺しに行かねば……そうしなければ、クリスからの報酬が入ってこない。1人残らず、殺さねば…………。





 ダスティンは、地面に広がる2つの足跡を目で辿りながら、急いでダンジョンの最奥へと走り出した。




 ――――が、しかし…………。




「…………フラーモ・アトリブート!」

 突如、彼の後ろから3つ程の火の球が飛んでくる。――――その火の球は、かなり大きく彼が避けようと体を軽く仰け反ると、その仰け反った方向へと向きが変わるのだった。




「…………んだと?!」


 ――――火の魔法の他にもう1つ、別の固有魔法を合成させたというのか!?



 ダスティンは、咄嗟に右の掌を大きく広げて、水の魔法を唱える。――刹那、自分の体の全体が守れるような大きくて薄っぺらい水の壁のようなものを作りだし、それで飛んできた火の球を防ぐのだった。




「…………あっぶねぇ……」


 彼はそう言って、若干黒くなってしまった自分の体の火傷の後を抑えながら、正面にいる1人のを睨みつけた。




「…………待ちなさいよ」

 その女は、白いドレスに黒の鎧を身に纏っており、手には刀のような見た目をした剣が握られていた。…………彼女=セリノは、まるで成人男性のように低く、恐ろしい怒気の混じった声でそう言った。



「……ようやく、2人だけになれたじゃない…………」


 彼女は、まるで狩人が獲物を見つけた時のような鋭く恐ろしい目をして、ダスティンの事を睨みつけていた。


「…………」

 彼は、そのあまりに恐ろしい目を見て、少しだけ背中がぶわぁっと震えた。



 ――――コイツ……。



 ダスティンは、初めて彼女に恐怖を覚えた影響か、そのせいで体が固まったように動かなくなってしまった。――頭では、何度も何度も動けと足に命令しているのだが、それでも彼の足は動かない。

 ――――――しばらくして、ダスティンは悟ったのだ。自分が今、目の前に見える1人の女に恐怖している事を…………。



 ――――前へ、進まねばならないというのに…………奴らを追いかけねばならないというのに……。




 しばらくダスティンは、彼女の事をただ睨みつけるだけで黙ったまま、ずっとこの先の事だけを考え続けていた。






 ――それから、彼の体が滑らかな動きを取り戻していったのは、彼が今のこの状況をどうするか…………決断をした時だった。





「…………ふふふ」

 ダスティンは、それまでの体の震えや恐怖といったものが、まるで嘘であったかのように突如としてそれまでの怪しくて不気味な雰囲気を取り戻していった。



「…………これは、の……そう、あの時の罪の償い……という事か……」


「……!? アンタ、まさか本当に…………」



「まぁ、俺は殺しで生き延びている人間だ。俺に復讐するなんて事が人生の中で起こってしまったとしても可笑しい事ではない。…………本来ならお前を殺すなんて事はするはずがなかった。…………犠牲者は、たった一人で済んだというのに……。まぁ、良い。……ホモ野郎。お前が、この俺の目的の前に立ちはだかるというのなら、俺は……自分のモテる全ての力で……貴様をあの世に屠ってやる!」 



 ダスティンは、そう言うと手に持った拳銃を構えだした。



「…………俺の固有魔法をくらって、後悔するなよ?」

 



 ――――――その瞬間、水滴の落ちる音しかしなかったはずのその空間に、耳を貫くような弾丸の発射される音が鳴り響き、それと同時に……弾丸の向かう先では、彼女が剣を構えて……その剣先に自分の魔力を集中させていた。



「…………コレイクティー!」



「…………!」




 こうして、ダスティンとセリノの因縁の対決が幕を開けるのだった。








 

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