第36話 セルピナ

「ふぅ…………」

 セリノの剣が、小さくなっていく。それと共に、剣についていた砂鉄がざざっと落ちていき、彼女の体のギュッと締った筋肉も徐々に元の状態に戻っていく。


 ――――それを見たアランは、すぐにこの戦いが終わった事を察知し、持っていたグレネードランチャーをドサッと地面に置き、その勢いのまま尻餅をついてしまう。


「……いてて…………」


 アランは、自分の尻を擦りながらすぐに起き上がろうとするも、戦いの疲れからか、なかなか立ち上がる事ができない。






「…………大丈夫?」

 立ち上がれないアランの姿を見て、セリノが彼に手を差し出してくる。――アランは、一言「ありがとう」と伝えた後、その手をギュッと握ってゆっくりと立ち上がる。


「…………助かったよ。けど、どうしてここだと分かったんだ? ……それにその恰好や、魔法まで…………」


 アランが、セリノにずっと聞きたかった事だ。彼は、肩で息をしたまま真剣な表情で彼女に言った。


 すると、セリノは「はっ!」と小さな声で驚き、何かを思い出したような顔で説明し始めた。


「…………協力してくれた人がいるの。困っている私に声をかけてくれて、それであなたのいる所へまで案内してくれた人がいるの」



「…………え? 誰が……」


 すると、その次の瞬間、何者かの声がアランとセリノの耳に入ってくる。


「…………アタシだよ」



「…………!?」

 アランは最初、前後左右をキョロキョロと見渡して誰なのかを探した。――しかし、そこには人の姿など全く見えない。


 ――――空耳かと思って、探すのをやめるとまたしてもその声が聞こえてくる。


「…………上だ。上だよ。あるじ



 2人が、ほぼ同時に上を見上げると、そこにはなんと白銀のサラサラした長い髪の毛とスカイブルーの瞳が特徴的な黒いパーカーを着た背の小さな少女が浮いていた。


「…………え? え? えぇ!?」


 アランは、驚いて再び尻餅をつきだす。


「…………こっ、こら〜。そんな所にいたら危ないぞ~? いや、でっでもなんか自分の力で浮いてるみたいだし…………」


 突如現れた謎の少女に驚くアランは、アワアワと口を震わせながら、彼女の姿を下からまじまじと見つめていた。

 すると、そんなアランへ追い打ちをかけるかのようにセリノが笑顔で言った。


「…………紹介するね! この子が、私を助けてくれた――」


「セルピナだ。 よろしくな! あるじよ」


 少女は、そう言いながらゆっくりと地面へ着地してきて、そのまま話し出す。


「…………アタシが、この女をここまで案内し、魔法の許可証を渡したのだ。感謝しろよ主」


「…………あっ、あぁうん。ありがと……?」

 アランは、困った表情と声でそう答えた。




 ――――あれ? この子、何処かで…………。


 アランの頭の中で、いつかの少女の姿が重なろうとする……しかし、彼が思いだそうとした瞬間に少女から声をかけられた。


「…………あっ、アタシが言った事、信じてないな? 主よ」


「…………え? あっ、あぁ…まぁ……うん」


 すると、今度はセリノが喋り出す。

「…………この子、本当に凄いんだよ。君のいる所へまですっごいスピードで空を飛んで送ってくれたし……。そういえば、魔法の許可証も10枚くらい持っているんだよ! あんなに高くて、とるのが面倒なものを、10枚も! 本当に凄かったんだよ!」


「…………あっあぁ、おっおう」

 アランは、困った顔でそう言って、それからすぐに話題を変えようとした。




「…………そういえば、その鎧とか武器はどうしたんだ?」


「あぁ、これは……君の所へ行く前に家に戻ってね、奥にしまい込んでいたのを引っ張って来たんだよ。昔使ってたやつだから、大丈夫かなって思ってたけど、案外使えるもんだね!」






 ――――――彼女は、嬉しそうにそう言うと剣を収納し、その後一言ぼそりと言うのだった。








「…………本当に、間に合ってよかった…………」






「セリノ…………」









 ――――――少しの沈黙が、3人に訪れる。アランとセリノは、お互いにジーっと見つめ合っていた。








「――コホン!」




「あっ……」


「…………」


 アランとセリノは、お互い頬を赤く染めて、恥ずかしそうに眼を逸らし合っていた。


 すると、謎の銀髪の少女――セルピナが、はぁ~っと溜息をついて言った。


「………………。まぁ、良い。そういうのを体験できるのもだからな」




「…………?」



 アランは、そんな突然現れた少女の言う事がいまいち何なのか理解できず、戦いの疲れもあってか、そのままボーっと少女の姿を見つめていくのだった。








 ――しばらくして、アランの頭の中に1つの疑問が浮かび上がる。



 ――――やっぱり、何処かで会った事があるような…………。


 刹那、彼の頭の中に、いくつかの映像が浮かんでくる。









 ――――


 列車の中での駅員との会話………………。








 ――――


 この世界に来る前、謎の暗闇の空間での死神との会話………………。










「…………」



 ――――まさか……いや、でも……どうしてだろう…………。










 ――――――しばらくして、アランは試しに聞いてみようと思い、セルピナの方を向いた。



「…………えーっと、セルピナちゃん?」


「…………その呼び方は、やめろ。アタシの事は、セルピーと呼んでくれ」


「あっ、あぁ…………ごめん。じゃあ、セルピーちゃん?」


「”ちゃん”も要らん。子ども扱いするな」


 少女は、頬っぺたを赤く膨らませた。




「…………わ、わかった。……えーっと、じゃあセルピ―?」


「うむ!」


 彼は、自分の今抱えている全ての悩みを少女に言おうとした。






 …………しかし、その時。







「…………そこに誰かいるんでしょ?」


 突如、セリノが後ろを向いて鋭い声でそう言った。



「…………!?」


「…………」


 アランは、驚いた顔でセリノの見ている方に視線を移した。





「…………アンタ、私達がキマイラと戦っている最中も隠れてそっちでコソコソやってたよね? でてきなさいよ!」





 ――――すると、その見ている方向から何者かの人影がそーっと立ち上がりだす。




 その人影は、少しずつ彼らのいる方へ近づいて来て、徐々にその姿が明かされていった。




 ――その人は、男だった。……癖の強めな髪の毛をオールバックにしていて、遠目から見ると新しめで綺麗そうな白のスーツ。普段は、ニコニコの笑顔が印象的だが、この時ばかりは、とても真剣な顔をして、彼らの前にその姿を現した。





「…………ダスティン? お前、どうしてここにいるんだ?」










 

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