第35話 共闘

「私が、前に出る。それであの怪物の注意を引き付けるから、アランは私の合図がするまではそっちの小さい銃2つを撃ってて。……んで、合図がしたらそのおっきいのを撃ちこんで!」


 そう言うと、彼女はアランが何か言いだす前にささっと走り出して、キマイラの右前足目掛けて、水の魔法で遠距離攻撃をしつつ、近距離に来たら剣で斬りまくっていた。



「…………」


 彼は、そんな彼女の姿を見て、ただ「すげぇ」と思うだけだった。



 ――正直な事を言うと彼は、いくら彼女の方が強いと分かってても、前で戦わせるのは嫌だった。元々、自分に任せられた仕事だし、それに一番は、セリノの事を危険にさらしたくなかった。どれだけ強くても、やはり男女。体の頑丈さや筋肉の違いが多少は、ある。だからセリノを前で戦わせるのは嫌だった。

 しかし、今戦っている彼女の姿を見て、アランの考えは変わった。…………戦いとは、適材適所。今の自分は、戦闘初心者。だから、魔力切れなんていう事になるわけで、そんな人間が前衛として戦いに行ったら、自分もセリノも間違いなく助からなくなってしまう。だから、ここは戦いに慣れている彼女に任せようと思うのだった。





「…………今だよ! 撃って!」


 前方で戦うセリノの声が聞こえた後、アランはすかさずグレネードランチャーの引き金を引いた。――爆発の影響で辺り一面に煙が充満し、そのおかげでキマイラの動きに少しの隙ができる。


「そこだァァァァ!!!」


 セリノは、剣をキマイラに向けたまま駆け出し、切っ先に魔力をこめだす。



「アルミロ・プリフォティーゴ……からの…………フェイラ・サラブロ・コレイクティー!」



 武器強化魔法によって刀身が白い光に包まれると同時に、地面や壁などダンジョンの至る所から何かが、剣へと吸収されていくように集まりだす。――その集まった砂のようなものは、徐々にくっついていき、そしてついには1つの形を成す。


 …………ここまでの事が全て終わって見てみると、アランは彼女の持つ剣の異様な姿に驚いた。



 ――――剣が、デカくなった!?



 さっきまで、現実世界で言う所の日本刀のような見た目と大きさをしていたはずの剣が、突如としてその大きさを大きく変えていた。――まるで、包丁のように刃が出ていて、それが巨大なのだ。


「…………マッ、マジかよ」


 セリノは、躊躇う事なくその巨大な剣を思いっきりキマイラの右の前足目掛けて振り出した。





「……………グジュガラアアアァァァァァァァ!!!!」


 ――――キマイラの大きな悲鳴のような耳と心を刺してエグル雄たけびの中、武器強化魔法によって得た切れ味と巨大さゆえの圧倒的重さが嚙み合い、キマイラの右前足は、いとも簡単にスパッと切り裂かれる。



 ――――すっすげぇ…………。



 アランは、見た事のないその魔法と彼女の圧倒的強さを見て、驚きのあまり口をポカンとマヌケに開けたままだった。





「…………アラン!」

 するとそこに、彼を呼びかける声が聞こえてくる。――すぐにそっちを振り向くと、セリノは焦った声で言った。


「……………ボーっとしてないで、すぐ次の弾を込めて! 早く!」


「あぁ……すまん!」


 ――アランが返事し終わるや否や、セリノはすぐにさっきと同じように遠距離では魔法を、近距離では剣を使って、キマイラを引き付けつつ、隙を作りに行った。




「…………ボーっとしてられないよな」


 アランも負けじと、ガンベルトに装填されているマグナムと拳銃を取り出し、交互に撃ちこむ。



 



「…………今!」


 その掛け声が聞こえた瞬間、アランは持っていた2つの銃を地面に捨てて、グレネードランチャーの引き金を強く引いた。




 ――その瞬間、弾がキマイラの角に命中。悪魔のような角の片方だけが折れて吹っ飛び、その折れた後から火を噴きだし始める! 



「…………グジュガラアアァァァァ!!!」

 凄まじい悲鳴と、それに便乗するように沸き上がる煙が再び、キマイラの視界を塞ぐ。



「……よしっ!」


 そして、そこにすかさずセリノの巨大な剣が出現する。

 彼女は、身体強化の魔法を自分の両足にだけかけてから力強くジャンプし、そしてキマイラの背中についた雷を纏った巨大な翼の一枚を一刀両断する。



 ズババババッと音を立てて羽が外されていくその光景は、まるで小さい無邪気な子供が蝶の羽を破り捨てるかのようなそんなムゴさを感じる。



 ────しかし、だからといってキマイラに対して同情なんてしてはいけない。

 すぐにセリノは、キマイラの炎の足に向かって水の魔法を、雷を纏う羽には土の魔法を的確に当てていく。


 アランは、それ見てふとダスティンが言っていた事について思い出していた。



 ────そういえば、属性魔法はゲームと一緒でその属性によって強弱があるんだったな。土→金→木→水→火→月→土って、そんな感じだったはず……。


 彼女の闘っている姿を見ると、確かにダスティンの言っていた通りのやり方で的確にダメージを与えていた。


「アラン! 今よ!」


 そして、ちょうどその時にセリノから声をかけられ、アランはすぐにグレネードランチャーをぶっ放した。

 セリノは、さっきと同じように魔法のかかった剣を持って斬りかかる。カタナの刃先に地面やあらゆる所から砂のようなものが集まりだし、それが一つの形を成して、巨大な剣が完成される。



「…………そうか、砂鉄か! 砂鉄を集めているのか! そして集めた砂鉄を魔法で自動的に剣の姿へまとめ上げる…………。そういう事か!」






――アランがそう言った後、今度はキマイラの尻尾の大蛇が、勢いよくふっ飛んでいく。



 ―――流石のキマイラも、この攻撃は結構効いたみたいでかなり苦しそうな叫びをあげだす………。





 ――キマイラは、そのまましばらく動かなくなった。


「……よしっ! これで、終わらす!」


 それを見たセリノは更に追い打ちをかけるように、砂鉄を集め出す。


「…………アルミロ・プリフォティーゴ……。フェイラ・サラブロ・コレイクティー……!!」


 セリノの剣が、今まで一番と言えるくらいの大きさにまで変化する。――

しかし、まだ彼女はこの剣を振るわない。更に彼女は、大きくなったその剣と自分の体のあちこちに様々な魔法を付与していく。


「フラーモ・アトリブート…………アークボ・アトリブート。トンドロ・アトリブート……クローポ・クリフォティーゴ……」


 セリノの体の筋肉が、ギュッと締って硬くなる。――更に、様々な属性魔法の力が、全て剣の中に蓄積されていき、凄まじい衝撃波を放ちだす……!!



「…………まだまだ行くよ!」

 するとセリノは、更にこの状態から全く見た事のない魔法を詠唱し始めた。



「…………デモバルジョ・!!!!」



 ――――ダンジョンのあらゆる所から、無数の光がセリノと彼女の持つ巨大な剣へと吸い込まれていく。…………やがて、彼女と剣は両目を開いている事さえできない位に眩しい強力なオーラを発しだした。


 ――――この、強い光……。砂鉄を集めていた時と同じ聞いた事のない詠唱……まさか、これが……”固有魔法”!!


 彼女は、地面を強く蹴って、空中からキマイラの頭目掛けて、その巨大な剣で斬りかかった。



「……アタシの今ある力全てを持って、ぶっ殺す!」



 彼女の剣が、キマイラの獅子の顔、象の胴体を通って行って少しずつ下へ落ちていく。


 そして、ついにその剣が地面に着地した時、キマイラのその恐ろしい体は、真っ二つに引き裂かれていた。



「……時代遅れよ。今更、こんな化け物なんて…………」




 ――――――キマイラの2つに分かれた体が、それぞれ別々のタイミングで地面にドサッと倒れ込む。まるで、パペット人形を地面に叩きつけたかのようにそのキマイラの残骸は、ドサドサと音を立てて崩れ落ちた。





「…………やったのか?」


 少し遠くにいたアランは、両の目を開けて呟いた。





 洞窟内は、ようやく水滴の落ちる音だけの空間へと戻ったのだった。


 

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