第33話 絶体絶命
「……日本…語? どうして、こんな所に日本語の看板が…………」
アランは、その手に持った得体の知れないモノをマジマジと見つめながら、その事実を飲み込めないでいた。……いや、というよりもこれは事実なのだろうか? アランは、思った。
────そもそも、この世界の文字に関して義務教育を受けた事のない自分が、これを漢字と判断する事が間違っているんじゃないか……。この世界の何処かにこうやって書く文字があるかもしれないし…………。
「……さっ、流石に現実世界のものが見つかる事なんて、あり得ないよな」
そうは言いつつも、彼は驚いた表情のまま、そーっと自分のGパンの前のポケットの中へ「電気街」と書かれたその小さな看板の切れ端を突っ込んだ。
────そして、しばらくして再びアラン対キマイラの戦いが幕を開けるのだった。
「……アルミロ・プリフォティーゴ」
両手で抱え持ったグレネードランチャーへ、彼の右の掌から生成された白い光の球が移動して、それがスルッと銃火器の中に入り込む。──そしてそれと同時にグレネードランチャー全体が淡い光に一瞬だけ包まれだす。
ダスティンが教えてくれた基本魔法最後の一つ──武器強化。銃火器系であれば弾丸の威力や硬度などが上昇し、刃物系であれば、切れ味が増し、より軽くなるといった感じに使用している武器をより扱いやすく、強力にする魔法だ。
「……よしっ! メモの通りにできた。これでいける!」
アランは、グレネードランチャーを構えてそしてキマイラの獅子の面、目掛けてその重い引き金を引いた。
────刹那、それまでと明らかに段違いのスピードで弾が発射された。そのあまりの速さと弾の硬さに、キマイラはまたも自分の前足で弾き飛ばそうとする………が、これが失敗したのだった。
弾が獣の顔面に向かって思いっきり激突し、それと共にとてつもない大爆発を起こす。
まるで、一番最初の頃に撃った方のが小さな地雷であったかのように、それは強烈な爆発をし、キマイラの顔を炎が襲った。
「グじゅルウあァァァァァァァァ!!!!」
大きくてグロテスクな獣の叫びが響き渡り、その隙にアランは再び、自分の掌を大きく広げて、その手に魔力を込める。
「…………アークボ・トリブート! フラーモ・アトリブート! トンドロ・アトリブート! ローゴー・アトリブート!」
彼の掌から物凄い数の色鮮やかな球体が出現して、それぞれが水、炎、雷、岩へと姿を変えていき、彼の掌から勢いよく発射される………!
――4つの球体は、一斉に合成獣の体のあちこちへぶつかっていく。
「…………はぁ、はぁ……はぁ…………」
――――なんだか、体が急に重くなってきたような………。
アランは肩で息をしながら、瞬きなどせずにジーっと前を見つめた。
――――すると、さっきまでキマイラの周辺で広がり続けていた様々な種類の煙達が、徐々に消えていく。………それと同時に、傷1つないキマイラの姿が、またしてもそこには存在していたのだ。
「…………そっ、そんな!? ここまでやっても………はぁ、はぁ………まだダメなのか!?」
アランは、息を切らしながら目の前のその光景に絶望しきっていた。
――――クソッ! また距離をとって……立て直しを…………。
――そう思った瞬間、キマイラが急に物凄いスピードで、迫って来た。
「…………!?」
そのスピードは、今までに全く見なかった尋常じゃないスピードで、すぐにアランの真後ろまで、獣の前足が届いてきた。
「……ヤバッ…………!!」
刹那、アランの背中にとてつもない熱量の炎を纏った強烈な蹴りが襲い掛かる。
アランの体が、まるでサッカーボールの如く、勢いよくゴロゴロと地面を転がっていき、そのままダンジョンの横の壁に激突する。
――――土煙が大きく舞い上がり、それと同時にアランの意識が一瞬飛びかかる。
「……………ングッ……」
――――視界が、ぼやける。頭が、クラクラする。体の節々が、いてぇ……。
アランは、しばらくダンジョンの大きな壁に寄り掛かったままボーっと目の前に見える3体に分身したキマイラを眺めていた。
「…………視界が、戻らねぇと……や…べぇ……」
――――――しかし、彼の視界のぼやけが収まった頃には、もう遅かった。
「……グジゅルルるゥゥゥゥゥ…………」
獅子の顔が近づいてきて剣のように尖った鋭利な牙と恐ろしい地獄の支配者のような角が、アランのすぐ目の前に見えだす。……獣特有の強烈な悪臭が更にアランの鼻をついてくる。
「…………」
――――なんとか、しねぇと……。
アランは、すぐに右の掌を大きく開いて詠唱を始める。
「…………フラーモ……アトリ…………」
しかし、どうしてだかその掌にはさっきまで、はっきりと大きく浮かび上がっていたはずの球体が出てこない。
――いや、正確には出てこないのではなかった。よく見ると掌の中心には、ぽつりと小さな球体が浮かび上がっているのが見えた。……しかし、どう頑張ってもその球体は大きくならず、微弱な炎をプスッ、プスッと音を立てながら少しだけ出すだけで、こけおどしにもならなかった。
「…………はぁ、はぁ……なっ、なんで!?」
アランが、肩で呼吸をしながら苦しそうに自分の掌を睨む。――だが、どんなに掌に力を集中させてもその球体は、小さいままだった。
「…………クソッ! だったら……トンドロ・アトリブートォ!」
それでも、球体は小さいまま。
――――もう飽きたよ言わんばかりにキマイラは、とうとうアランへとどめを刺しにかかった。
「グるゥガアアぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
キマイラの巨大な牙がアランの心臓へ向かってぶっ刺さろうとする……!
「…………!?」
――――――――と、その時だった。
キマイラの様子が、突如可笑しくなった。
「…………え? なっ、なんだ?」
よく見ると、キマイラの胴体の辺りに何か、剣のようなものが刺さっていた。
「こっ、これは? …………」
アランが、口をぽっかり開けて驚いていると、その時……自分の名前を呼ぶ誰かの声が、聞こえてきた。
「…………アラン!!」
それは、とても透き通っていて芯の強い雰囲気を思わせる女性の声だった。
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