第31話 これが、始まり。

 洞窟の中に入ったアランは、まず驚いた。――そこは、本当に入口が詐欺なんじゃないかと思うくらい奥へ奥へと……とてつもない闇の空間が広がっていて、入ってすぐの所からでも、この洞窟の中の高さや横幅などあらゆる所が広大である事が分かった。


 元々、この洞窟は広い荒野の中に立つ大きな赤い崖の下にぽっかり空いた地味な見た目の穴だったわけだが……。



「…………ダスティンの言う通り、すげぇな」





 ――――それから少しの間、アランは満足するまで驚き続けた後、とうとう奥へと進む事にした。


「ルーモ・アトリブート」


 呪文を唱えると、アランの左の掌から光の小さい球のようなものが現れ始めて、それが丁度いい位の明るさで光りだす。


 ――基本魔法の1つ、属性魔法”金”の光の呪文。これにより、彼の周りと前方が照らされ、見えない暗闇の中でも進んで行けるのだった。


「よしっ。行こう」


 アランは、一歩一歩……と慎重に奥へ進んだ。



 ――――何処からともなく聞こえてくる水滴が上から下へ落ちる音が、地面を踏み込むのとほぼ同じタイミングで洞窟内全域に鳴り響く。…………音の木霊する感じからしても、この洞窟がとてつもなく広い事が分かってくる。



「…………まるで、宇宙だな」


 アランは、そんな独り言をボソッと言うと、ふと……ある事を思い出した。




 ――それは、この世界へ来るきっかけとなった出来事。…………そのイベントが起こった場所だ。




 ――――あの時も、同じように広くて暗い空間にいたっけな…………。


 懐かしいな。と彼は、まだ一か月も経っていない事をあたかも古い記憶であったかのように思い出していた。




 ――――不思議だな。電車に乗った辺りから、あの時の事ばかりが頭の中に鮮明な映像として浮かびあがってくる。…………全く、こんな世界に転生させて……あのほねほね野郎は、一体何が目的で俺をこんなポンコツな異世界へ飛ばしたんだ…………。自分の親を俺の前世だか来世に殺されたのか?



 気づくと、彼はその時の愚痴を心の中で思うだけでなく、自分の口からもブツブツと言っていた。




 …………アランが、自分でそれに気づくのは、少し経ってから「この馬鹿死神がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」と叫んだ辺りからだった。





「…………おっと、いけねぇいけねぇ」


 気を取り直して、彼は前へ前へと進み続ける。――しかし、そうは言っても一度イライラが止められなくなってしまった今のアランが簡単に落ち着けるはずはなく、彼はイライラとモヤモヤの混ざった何とも言えない吐き気を催してしまいそうな、どうしようもないマイナスの気持ちを抱えてしばらく歩き続けた。













           *



 ――――しかし、しばらく歩いてから彼の中のマイナスな気持ちは完全に消えていた。……というのも、アランがこの無限に広がり続ける洞窟の中に入ってから既に1時間半程の時間が経っており、あれだけ冒険やダンジョン攻略に期待して、ワクワクしていた彼も流石に我慢の限界だった。

 どれだけ歩いても、聞こえてくるのは落ちる水滴の音と手に持った銃が何処かにぶつかった時のカチャカチャ音、それから自分の足音と独り言だけだった。目の前に見える景色も常に同じ。何もない暗闇がブラックホールの如くブワァ~っと見えてくるだけ…………。これでは、流石にどんな人でも飽きが来る。


 ――――引き返そうか…………。


 正直、そう思った。今からでも遅くないんじゃないか。ゴールの見えない真っ暗闇を進んで行くよりも、あらかじめ何処がゴールか分かってて、どれくらい歩けば良いかざっと把握済みなダスティンの待つ入口へ戻った方が良いのではないかと……歩きながら、そう思った。



 しかし、そうは思っても不思議な事に彼の足はどんどん前へ前へ…………とまるで何かに引き付けられるかのように…………本当のブラックホールへ吸い込まれているかの如く…………突き進んで行く。













 ……………………そのうち、腹が鳴った。






 ――ぐぅぅぅぅぅぅうううう!!!! っと、大きくて立派な音が、洞窟内に木霊する。


「…………腹が減ったな」


 彼は歩きながらそう呟いた。…………しかし、何か食べれそうなものがないかと本能的に辺りを探し出すと、ふとここに来てある事に気づきだした。



「…………このダンジョン。蝙蝠とかそういう動物どころか虫でさえも……一匹たりとも存在してなくねぇか!?」



 その証拠に、彼が光魔法で照らしてみたダンジョンの壁や天井には、蝙蝠もフクロウもどんな動物も一匹も存在しておらず、ましてや落ちる水滴の音は聞こえてきても………………それ以外の自分以外に生物がいるだろうなという音は、ほんの1Hzも聞こえなかった。


「…………!?」


 アランの呼吸が、徐々に早まった。


 ――――まずい。何がまずいかは、まだよくわからないけど……明らかにこの空間は、以上だ。俺の本能が危険をビンビン感じている。そんな気がするぜ……。


 アランは、自分の足をようやっと止めると、ガンベルトにぶら下がった拳銃をいつでも引き抜けるように右手で留め具を外し、もう片方の手で背中に背負っていた大きなグレネードランチャーを構えた。


「…………クローポ・クリフォティーゴ」


 そして、いちよう念のために肉体強化の基本魔法を自分の体全体にかける。



 ――――すると、徐々にアランの体の筋肉が膨らみだす! 彼は、いつでも敵が来てもいいように前を向いて待った。

















 ――――――――すると、しばらくして重たいものが落下してくるような重低音が、ダンジョンの中から聞えてきた。



「…………」

 ゴクリ……と生唾を飲み込むアラン。




 ――――ガチャッ! っと音を立てつつ、グレネードランチャーを向ける。










 ――――――音は、時間と共にどんどん大きくはっきりしたものへと変わっていった。









 ――――ズゴッ、ズゴッ……ズゴッ!!!



 とうとう、その音が何か巨大な生物の足音であると認識できるくらいになった。













「……来るッ!!」

 そう思ったアランが、武器を瞬間…………だった。





「ウぐじュ流ゥゥゥゥゥゥゥゥ……ドびぃュゥゥゥゥゥゥウガがアァァァァァァァァァァァァ!!!!!」




 グロテスクで大きな雄たけびが、から聞えてきた。


「…………何!?」





 すぐにそっちへ振り返ると、そこには……。








 到底、一言では表現しきれない位メチャクチャな見た目と、恐ろしくグロテスクな姿をしたとんでもない化け物が、待ち構えていたのだった…………。


 

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