第30話 ダンジョンへ…………
その洞窟は、やはり写真で見た通り小さくてしょぼかった。穴の大きさも、背の高い人間がギリギリ入れるくらいしかなくて、洞窟の周りにも特に飾りはなく、パッと見た感じは中に魔物がいるっていうよりも、動物達が冬眠しているような……そんな可愛い見た目のポニー達の共同ベッドのような印象を受けてしまう。
「…………ようやく異世界勇者って感じの話ができたのに、到着した場所の見た目がこれって…………。なんか、テンション下がるよなぁ」
アランは、目の前に見えるしょぼい見た目のダンジョンを見てブツブツと小さな声で文句ばかり言っていた。
――すると、その隣に立つダスティンが彼に言った。
「…………俺が着いてけるのは、ここまでだ。ここから先は、お前1人で行ってくれ」
――――しかし、当のアランはダスティンの言葉などそっちのけで、文句を垂れ流し続けていた。
「…………へっ! 何処までもこの世界ってのは、俺の期待を悉く粉砕してくれるよな。ちょっとくらい、異世界感漂うでっかくて、豪勢なダンジョンになってくれても良いってのに…………」
「………はぁ。お前、いつまでブツブツ文句言ってんだ? これからダンジョンだぞ。…………お前の働きは、俺やクリスにとっても重大な事なんだ。……なんたって、ダンジョン攻略報酬の3割は、確実に手に入るんだからな!」
「…………わーってらぁ! ちゃんと、中には入るよ! ……けどな、この短時間に基本魔法を覚えて、ここまでやってきた割に洞窟の見た目がこんなんだとよぉ…………。割に合わねぇというか……これじゃあ、もしかしたら魔法なんて最初からいらんかったってパターンになりそうなんよ」
「…………はぁ、そういう事か。あのなぁ、アラン。このダンジョンは、最初は凄くしょぼくて大した事なさそうに見えるけどなぁ。中に入ると、もうとんでもねぇ。入口の小ささが異常だったんじゃないかと思うくらい広いって事が外からの調査で分かったんだ。…………それに、良いのか悪いのか……。このダンジョンの中には、何か巨大なもんがある。具体的に何かまでは、外からの調査じゃ分からんが、けどこのダンジョンには何かあるんだ。…………だから、元気出しな。君の期待した通りの冒険要素は、ちゃ~んと備わっているっちゅうわけさ~」
アランの口元が、徐々にいやらしく吊り上がっていく。
「…………えっ、えぇ!? まじぃ!? 中は、ちゃんと広いのかよ! そうかそうか。な~んだ。本は表紙で判断するなってこういう事かよ! くぅ~、良いねぇ! 巨大な何かって、なんだかワクワクするなぁ! 燃えるゥゥゥ!!!」
――――こうして、やる気を取り戻したアランは、ちょっとした支度を始めるのだった。
「…………ガンベルトだ。腰に巻いてくれ」
「…………はぁ。それでも格好は、勇者っぽくないのが残念だなぁ」
「文句ばっか言ってんじゃねぇぞ。……ほれ次だ…………」
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「銃の弾だ。これを肩から下げておいてくれ」
「……俺は、アー〇ルド・シュ〇〇ツェネッ〇ーじゃねぇ!」
――――なんやかんやあって、とうとうアランは未知の洞窟の中へと旅立っていくのだった。
「…………気をつけて行けよ。中には、どんなものが潜んでいるのか分からない。俺達の想像を超える魔物の生き残りや未発見の魔獣がいるかもしれない。怯まず、戦えよ。勇者…………」
「おう! 任せとけ。俺様の魔法と銃さばきで魔物なんて蹴散らしてやるぜ!」
「…………よしっ。やる気は充分だな。……それじゃあ…………」
ダスティンが、右手を上げて軽く手を振ると、それに合わせてアランも前へ進んで行く。
…………この時のアランは、手を振るダスティンの方なんて全く見ずに、ただ洞窟の方だけを向いて進み続けていた。――それは、これから始まる自分の冒険への期待や興奮が抑えられないから……なのか。あるいは、やはりそれでも緊張しているからなのか…………。
この時のアランの心境について詳細は、分からない。――――しかし、未知のダンジョンへと向かって行くその後ろ姿は勇者として未熟であるとはいえ、何処か誇らしさのようなものも感じる。
…………少しして、アランの姿が洞窟の闇の中へと消えて行った所で、ダスティンは右手を下ろした。
――そして、落ち込みだす太陽を背に、彼の体がプルプルと揺れだす。……顔に影がかかる。しかしダスティンの口元は、まるでホラー映画の口先女の如く、落ち行く太陽に反してどんどん吊り上がっていき、目は商売人というよりもペテン師が嘲笑うかのような不気味な厭らしさを放っていた。
「……さぁて、頼んだぜ。ワンちゃん…………」
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