第29話 魔法
駅から出ると、午後の太陽と涼しい風が2人を迎える。
「…………ここから少し歩くぞ。着いてこい」
ダスティンにそう言われると彼=アランは「コクッ」と頷いた後、その後ろを着いて行った。
「…………スタビーラ洞窟は、この駅から少し歩いた所にある。1時間は、歩くと思うから気を付けて着いて来い」
ダスティンの言った通り、そこからは本当にただ歩き続けた。自分達が最初にいた都会の町と違って、駅を降りるとだだっ広い荒野が広がっていて、そこにサボテンがぽつぽつと生えているだけの景色が延々続いていた。…………たまに見える鉱山や、西部劇に出てくるような町が見えたりするのが、やっとで……ちょっと前まで車や電車などの交通の便が整備されつくした世界にいたアランにとって、こんなに景色が変わらず、長い時間を自分の足で進まなきゃいけないという状況がなかなかキツかった。
「…………なぁ。ダスティン、まだか?」
「まだだな。もっと歩く」
「…………なぁ、いちようここって……魔法が使える世界だろ?」
「あぁ、そうだな」
「…………転移の魔法とかってないのか? こうさ、ぶわぁ~っと魔法陣が広がっていってさ、んで……ブシュンッ! と目的地までワープするみたいなさ……。もしあるなら、あんな基礎魔法よりそっちを覚えたいよ」
「…………お前には無理だ」
「えぇ~! なんでよ~」
アランがそう言うと、急にダスティンは黙りだす。
――しばらくして、ダスティンはとても真面目な顔でアランの事をジーっと見ながら言った。
「…………さっきの魔法は、この世界に住む全ての人間が撃つ事のできる基本魔法だ。だから、今のお前でも簡単に身に着ける事ができる。……だが、お前の言うその、転移魔法っていうのは間違いなく基本魔法の類ではない。……だから無理だ」
「…………? 基本魔法? 類? ダスティン、お前何言ってんだ?」
アランは、聞き覚えのないその言葉にキョトンとした顔でダスティンへ尋ねる。
「はぁ……。アラン。君は、自分で冒険がしたいとか抜かしておきながら、そう言う事は自分で調べないのか?」
「…………いやぁ、だって……スマホないし、どう調べて良いのか分かんないからさ~」
アランの言葉に、ダスティンは更に大きなため息をついた。
「…………良いか? よく聞けよ? この世界には2種類の魔法が存在するんだ。”基本魔法”と”固有魔法”だ。まずは、お前に渡したメモに書いてある基本魔法からだ。これは、文字通り基本の魔法の事で、この世界に存在する全ての生物が使用できる。そのため汎用性が高く、誰でも簡単に覚えられるだけでなく、極めれば魔力消費も抑えれて且つ、効率の良い魔法攻撃なんかができるってわけだ。…………まぁ、その代わり、確実に相手を殺せるほどの決定打はないし、基本魔法は誰でも簡単に使える分、打ち消される事も多い。特に属性魔法は、さっき渡したメモにも書いてある通り……大地や岩を操る土、雷や光などを操る金、植物や生命に関するものを司る木、水や氷を操る水、炎や熱を操る火、影や闇を操る月。この6属性があって、それぞれがさっき言った順番通りに、土には金が強く……金には木が強いって感じなんだな」
「…………おぉ! それでそれで!」
アランは、目を輝かせながらダスティンの解説を聞いていた。……ダスティンが続ける。
「…………あっ、あぁ。えーっと次は、固有魔法だな。これも文字通りに、その人個人のみが持てて、他の人には使う事のできない魔法だ。基本魔法と違って、撃つのが圧倒的に難しくて、習得も大変だし、ものによっては魔力の消費も尋常じゃない場合がある。…………その代わりに基本魔法と違って決定打になるし、打ち消される心配もほとんどねぇ。……まっ、今のお前がこれを撃つ事は出来ねぇだろうけどな」
ハハハ……っとダスティンが笑っていると、アランはその目をキラキラと輝かせて、質問する。
「なぁ! おい、聞いて良いか? 良いよなぁ!」
「…………あ? おっ、おう」
「基本魔法はさ、全部で6つ。月火水木金土ってあるわけだろ?」
「…………まぁ、そうだな」
「…………じゃあさ、この流れでなんで”日”だけないんだよ! こんなよぉ……まんでー、ちゅーずでー、うぇんずでい…………で、えーっと……まぁ良いや。そんな風に続いてるのに、どうしてサンデーがねぇんだ?」
ダスティンは、頭の後ろをポリポリかいてから説明を始めた。
「…………君の言う、”この流れ”というのは、よく分からないけど……良い質問だぜ。…………実はなぁ、日の基本魔法もあるにはあるんだよ。ただし、それは人間の力じゃ使えない」
「…………どういうこっちゃ?」
「お前、この世界にもこの世界特有の神がいるって知ってるよな?」
「おう。…………”いただきます”とかする時に言う奴とかなら」
「…………その神達が基本魔法として使っていたのが、君の言った第七の属性。”日”の魔法。地球などのあらゆる星、更には宇宙に存在するものを操る魔法だ。…………この世界の神話なんかにはよく出てくる。まぁ、最もそれだけ強大な力を持つ魔法だ。はっきり言って、人間が基本魔法として使う事なんて到底不可能なんだ」
「…………へっ、へぇ」
――アランは、ダスティンの話を聞いて1つ思った事があった。それは、自分を転生させた”ほねほね野郎”こと死神を名乗る美少女。――――彼女は、この日の魔法を使えるのだろうか? もし使えるのだとしたら、あの子もこの世界の神の一柱として数えられるのだろうか? さっきダスティンは、この世界の神話の存在を話してくれた。死神のあの子は、その神話の中に出てくるのだろうか。……あるいは、もしこの世界の神ではないんだとしたら、前の世界の神という事なのだろうか? もしそうなんだとしたら、転生前に名前を聞いておけばよかった。
前世で中学生くらいの時、とある病にかかった事が原因で、神話とかは読み漁ってたし、聞いたらもしかしたら知っていたかもしれない。…………また、あの子に会えないだろうか。
……………………そうやって、アランが1人で考え事や妄想を膨らましている中、前を歩くダスティンの足が、とうとう止った。
「…………さぁ、着いたぜ。アラン。ここが、これから今日、お前に行ってもらう洞窟だ」
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