第26話 列車の中にて②

 ――――――ガタン、コトン…………。


 列車は、終点へと進んで行く。




「…………」

 そんな中、アランは1人で窓の外をボーっと眺めていた。



 ――移り行く景色。真っ白な雲が、美しい青い空にぽつぽつと広がっていき、その下には様々な蒼い自然と雄大な大地。そしてそれらを照らす大きな太陽。

 まさか、あの近代都市のような機械化された町から出るとこんな美しい大自然を見れるとは、彼は思っていなかった。


 ――――綺麗だなぁ。



 そんな風に感心すると同時に、彼は何処かその景色にのようなものも感じた。











               *



 列車の旅が始まってから、だいたい1時間くらいが経つ頃。


「…………おはよう。まさかここにいるとはな」

 白いスーツを着た男が、彼の隣に座って来た。


「……おはよう。ダスティン。…………大きいリュックだなぁ。どうしたんだ?」

 アランが尋ねると、その男――ダスティンは、リュックを開けて中身を見せながら答えた。


「…………今日のために、クリスから支給された武器とかだよ」


 アランが、中に入っている武器を1つだけ手に持ってみる。


「……これって…………」


 それは、彼が前にいた世界で、よく映画やテレビの中で目にしていたような収納しやすいコンパクトで色が黒い、ダンジョンという言葉に明らかに合わなそうなモノだった。



「…………どうして、がここに……」

 アランは、驚いた顔でそう告げた後、リュックの中に入っている他の様々な武器を漁りだす。


 中には、やはり拳銃やマグナム、それに大きめのグレネードランチャーのようなもの、またそれらに装填するであろう沢山の弾。他にナイフ、防弾チョッキ、ヘルメットのようなモノばかりが入っており、アランはダンジョン攻略というよりも、何か大きな動物を狩りにこれから行くのではないかと心配するようになっていた。



「…………おい、これがこの世界のダンジョン攻略の時に使う武器一式かよ。もっと、中世ヨーロッパ風の重たそうでバカでかい剣とか盾を持ってさ、肩が凝りそうなくらい無駄に重たくて分厚い鎧を身に纏い戦うみたいなそういう王道な勇者ファンタジー的なのを期待していたんだけど…………。これじゃあ、勇者じゃなくて兵士とかハンターだぜ。…………いくら、この世界が近代化しているからって、これはちょっと酷いんじゃないのか?」


 アランは、このどうしようもなく心に来る不満を全てダスティンへぶつけて、手に持った拳銃をリュックの中へ勢いよく投げた。――すると、その投げられた拳銃を壊れていないか心配そうに手に取ったダスティンが、アランを睨みつけた後、言うのだった。

「バカ野郎! 壊れたらどうするんだ! ……文句を言うんじゃねぇ! これが無きゃ、君はダンジョンの中で石を投げる程度しか能のない股間丸出しの全裸のクソザルと同じになっちまうんだぞ! それでも良いのか? …………言っておくが、ダンジョンの中にもし化け物がいた場合、石投げじゃ絶対に敵わない。もっと言うと、銃だって通用するか否かだ。…………今更、こんな事を言うのも変な話だが、お前はんだ。それを覚悟しとけよ」



「…………おっ、おう」


 ダスティンのその言葉は、彼にとってかなり刺さるものがあった。元々、異世界に転生したら勇者になって冒険したいという憧れがあって、そのノリでここまで来てしまったわけだが、改めて考えてみるとそれがどれだけ危険な事か、彼はまだ覚悟が足りなかったのかもしれない。

 …………勇者になる。戦場へ向かうという事がどれだけ恐ろしくて、危険で大変な事かというのを彼は、さっきまで嫌に思って、投げたりしていたリュックの中にある拳銃やヘルメットの姿を見て生唾を飲み込みながら、覚悟をした。


 すると彼の姿を見てからダスティンが「そういえば……」と小さな声で言って、スーツの内ポケットから一枚の紙を取り出し、それをアランへ渡した。


「…………なんだ。これ?」

 

「説明し忘れてたな。…………実は、この世界では魔法が制限されているの以外に、武器に関しても法律上制限がされているんだ。だから、もしも移動中とかに警察に見つかった時のためにと思ってな。クリスから貰ったんだ」


「…………ふーん。不便な世の中だな」

 アランは、その紙をぴらぴらと音を立てて、表や裏などあちこちを興味深そうに見渡した。



 ――――すると、突如ダスティンがアランの耳の前まで顔を近づけてきて、指で合図を送ってくる。


「…………その許可証は、実は偽造なんだ」

 ダスティンが、ヒソヒソした小さい声でアランに告げる。


「…………なんだって!? それって、色々まずいんじゃ!」

 アランは、驚きのあまり大きな声でそう言いだす。――すぐにダスティンが慌てた顔のまま人差し指を口の前に立てる。


「…………あっ、あぁごめん。騒がしかったな」


 アランがそう言うと、ダスティンは続けた。



「…………よく聞け。本来、武器の許可証は前の世界で言う所の車のように訓練所に行って免許を取らないといけない。だから、かなり許可証を取るのが大変なわけだが…………。今回は、そんな事をしている暇がなかった。前に渡した魔法の許可証があるだろう?」


 すると、アランは「あるよ」と言って、自分の服のポケットから小さく折られた魔法の許可証を取り出して、それを広げた。


「…………そっちの許可証は、変な訓練なんか必要ない。高い金が払えて、ちゃんとした目的があれば誰だって取りに行ける。……まぁ、それでもかなり大変なんだけどな。…………おっと、すまない。話が脱線したな。とにかく、お前はそれがあれば、時間内なら魔法を撃ち放題だ。…………とはいっても魔法なんて一度も使った事がないだろ? だから、残りの時間でこの3つの魔法を覚えるんだ」


 そう言うとダスティンは、またしても内ポケットから一枚の小さい紙を取り出して、それを渡した。


――――アランが、それを開いて見てみると、中には3つの呪文らしきものが箇条書きで書かれていた。


「…………上から、身体強化魔法。簡単な属性魔法。最後に、武器強化の魔法だ。これを目的地に着くまでの間に覚えて使えるようにしな」


 ダスティンが、そう言うとアランは突然びっくりした顔で言った。


「…………いっ、いや! ちょっと待てよ! いきなりそんな事言われたって、簡単にできるもんじゃないだろう? もう少し時間をくれよ」


「時間なんてねぇよ。今覚えるんだ。…………まっ、安心しろ。どれもちょっとコツを掴めば簡単にできるもんばっかだ。覚えられるさ」


「…………ほんとかよ。だって、3つもあるんだぞ?」


「平気さ。今までの転生したての新人たちだってできたんだ。お前にだってできるよ」


「……そっ、そうかぁ…………」

 アランは、少し自信なさげにそのメモを見て、小さい声で詠唱を始めるのだった。



 ――――そしてそれと同時にダスティンが少しだけ口元をニヤリと歪ませるのをアランは見ていなかった。



















               *


 ――――それから30分位が経つと、ダスティンの言う通りアランは書いてある3つの魔法のうちの最初の1つは使えるようになっていた。


「…………なんだよ。案外、お前の言った通りに簡単にできるじゃねぇかよ!」


アランが喜んでいると、隣にいるダスティンが嬉しそうにして言った。

「そうだろ? できるもんだろ? ちなみにな、1つできるようになると他の2つもすぐにできるようになるんだよ」


「…………そうなのか! ったく、さすが魔法だぜ」


 そう言うと、アランは再び詠唱の練習を始めた。――それと同じタイミングで隣にいるダスティンもアランに聞こえない程度の小さい声でブツブツと唱えだすのだった。

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