第25話 列車の中にて①
列車の中は、なんだかとても懐かしさを感じる。そんな雰囲気だった。部屋の中は木で作られていて、新幹線のような席の配置で、窓には紅色のカーテンがつけられていて…………。
――――西部劇なんかでよく見る感じの物凄くレトロな作り。こういう所も現実世界と全然変わらないんだなぁ。
新井信ことアランは、そんな事を思いながら席に着くのだった。
――彼は、列車が出発してすぐの最初の頃、客車の中全体を見渡して、まるでタイムスリップでもしたかのようなその雰囲気を目で見て感じ、耳で汽笛や蒸気の音を聞き、鼻で木の香りを楽しんだ。
現代の日本に元々住んでいた彼にとって、列車というのは常に人がパンパンに入っていて、路線は複雑で、出発して2,3分で着いてしまって、プラスチックや鉄の冷たさと硬さが特徴的なそんなイメージしか持っていなかった。このような列車に乗れる機会なんてほぼないのが当たり前だ。だから彼にとっては、これも貴重な経験だ。
「…………すげぇ」
彼は、嬉しそうにそう言うのだった。
――しかし、それから少し経ってから一番後ろの内側の席に座っている彼は、さっきまでの感動がまるで嘘のようにとても退屈な気分になった。当然、自分の左隣りには誰も座っていない。…………そして周りを見渡すと家族連れだったり、友人や恋人と一緒に来ていたりしている中、アランは1人なのだった。
――――暇だ……………………。
こういう時、どうしてだか他の席に座る人達がどんな感じなのか、自分と同じ境遇の者はいないのかどうか無性に確認したくなってしまうものだ。
彼は、一番後ろの席に座る者だけが許された特権――客車の中、全体の様子を見渡すというのを利用して、周りにいる自分以外の全ての人間の様子を確認し始めた。
そしてそれは段々、ただ確認するだけの作業ではなくなっていくのだった。
――――クソッ! 俺と同じ暇を持て余したクソボッチはいないのかよ!?
彼の人間観察は、次第にこんな愚かで馬鹿らしい人探しへと変貌していったのだった。
そして、そんな事を始めてから数分。
――――――――見つけたァァァァァァァァ!!
すぐにその明らかに1人で来ていそうな人間の姿を、彼はジーっと見つめる。
後ろ姿なため、顔がしっかり見えないがその人は男性で、後ろからパッと見た感じ、中年くらいの歳で、白い帽子の似合う、そんな人だった。
――――へへへ、な~んだいるじゃん。俺と同じのが。……まったくぅ~、子連れの家族が向かい合って座っている所に一緒に紛れてるから一瞬、ボッチじゃないと思っちまったぜ。騙しやがて~。隠そうとしても無駄だぜ。おっさん。アンタも、俺と同じ暇を持て余したクソボッチである事はもうバレばr…………。
そこまで馬鹿にしておいてから、彼は気づいてしまったのだ。…………いや、気づいたというより気づかざるを得なかったのだ。
彼が、さっきまで馬鹿にしていたボッチのおっさんは突如、強烈なくしゃみをかまし出した。…………当然、その時アランは笑っていたわけなのだが……その大きなくしゃみと共に彼の大きな背中から姿を現したものは、なんと半分に折られた新聞紙だったのだ…………。
――――あのおっさん……くっ、クソッ! こういう時のためにちゃんと暇をつぶせる専用アイテムを持っていやがったのか! 俺なんか、電車に乗るための行きのお金しか持っていないから、新聞なんて高価なもの買う事さえできないというのに…………。クソッ! これだから金持ちのボンボンはぁ……!
――――とてもこれが、これからダンジョンへ潜入する勇者様の姿だとは思えない光景だった。
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