第24話 発車
──早朝。眩しく光出した太陽が、高いビル群を照らし出す。生物の目覚め。いや、まさに人類の夜明けを暗示させるようなそんな光だった。
......が、しかし。この世界の人類は、既にその太陽が今日の導きを始めるより前から、自分達の手で作り上げた光や技術によって暗闇も霧も何もかも全て困る事なく進んでいけるのだった。
新井信ことアランも、同じだ。昨晩、共同生活をしている大切なパートナーのセリノから辛い過去を打ち明けられ、更に行かないでと泣かれたほどだったわけだが、結局彼は外へ出て、目的地へと向かうのだった。
彼が、まず最初に向かった場所。それは、駅だった。
ダスティンが渡してくれた地図には、親切な事に目的地までの行き方も書かれており、この世界の地理について全く分かっていない彼でもその地図に書かれた通りの電車に、時間通り乗る事でちゃんと目的地へ辿り着く事ができると言うわけだ。
「......すみません。アウトノ・フォリノ...オリギナーヤギへ行きたいのですが......」
アランは、駅に着くと早速受付の人に声をかけて切符を買うことにしたのだった。
「あぁ、ミルフォリオ行きですね。少々お待ちを」
すると駅員は、下の棚を漁り出してチケットをパラパラめくって確認を始める。
「..................えーっと、あぁ。これだ」
駅員は、体を起こして手に持ったチケットをテーブルの上に置いた。
「......4シューペラね」
アランは、駅員の言った金額を地図と一緒に入っていたお年玉袋のような小さい袋の中から取り出す。
言われた金額をテーブルの上に置くと、駅員がお金を数え出す。その間にアランは、ダスティンの準備の良さに改めて感心しているのだった。
────アイツ、何も言わずにさらっとこういう事をやってのけれるの本当にすげぇな。ちょっと感動したぜ。
アランは、なんだか彼へ感謝したい気持ちになった。彼の心の中に一瞬だけ「後でお金が入ったら一杯くらい奢ってやろう」と言う思いがよぎる。
「......ちょうど頂きました。どうぞ」
駅員がチケットをアランに渡す。──彼は、小さく「ありがとう」と返事をしてホームへ向かっていくのだった。
「............ノヴァ...ガステヨ......ステーション。広いんだなぁ」
アランが駅のホームへ辿り着くと、ちょうど汽笛の音が駅全体に木霊しだして、向こうからクジラの潮吹きの如く勢いの良い蒸気を噴き出す機関車がやってくるのだった。
「ノヴァ〜ガステーヨ。ノヴァ〜ガステーヨ。......次は、ジェネラシオリーグノに泊まります」
ホームの真ん中に立つ女性の駅員が、トランシーバーのような形をしたマイクを片手に口元に当てて大きな可愛らしい声でそう告げる。
────あぁいうのも、ちゃんとあるんだなぁ。
アランは、駅員の姿を見て興味深そうにしていた。すると、その女の駅員は再びトランシーバーを握りしめて、言うのだった。
「間も無く発車します。......ミルフォリオ行き〜。乗り遅れのないようにお願いしまーす」
「......!?」
彼は驚いて、すぐに手元にある地図に書いてある名前を確認する。
「やっべ! 俺が乗るのこれかよ!」
アランは走って車内へ駆け込んでいく。............彼が中に入ったと同時に客車の扉が閉まり、列車が出発の音をホーム全体に響かせるのだった。
「......」
そして、アランは徐々に早まる列車の中で空いた席を求めて歩き出す。
「......」
その様子を外の女の駅員は、じーっと見ていた。彼女は、ピーッと笛を吹かせつつ、アランが席を見つけて座り出すまでの時間としてわずか1分もないくらいの間、一切目線を離す事なく見つめ続けた......。
かくして、アランの旅が幕を開けた。
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