第27話 列車の中にて③
アランが、魔法の詠唱の練習を始め出してから更に30分位が経ち、既に3駅ほど通り過ぎって行った。
「…………フラーモ・アトリブート」
アランが、小声で呪文を唱えると彼の右の掌から小さくだが、ライター位の火力の炎が噴き出してた。
「…………あっつ! おぉ、すげぇ! ちいせぇけどちゃんと炎出てるよ! すげぇや!」
着々とメモに書かれた魔法を習得していっていった彼は、既に身体強化の魔法と初歩的な属性魔法の炎は使えるようになっていた。
「…………な? 案外いけるもんだろ?」
ダスティンが、そう言うとアランは元気よく返事をしながら、属性魔法の練習を続けた。
「…………アークボ・トリブート」
彼の人差し指の先から小さな雫が、生命の誕生を表現するように生まれて、そのままバランスを崩したようにポタっと床に転げ落ちる。
「……………………うーん。もうちょいかな?」
そうやって、彼はめげずに何度も何度も魔法の練習をし続けた。
――すると、突如後ろから声をかけられる。
「…………チケット確認します」
声のする方を見ると、そこには帽子を深く被り、長いサラサラした白銀の髪の毛を下ろした背の小さい少女のような女性が立っていた。
――――可愛いな。
アランが、駅員の女の子の姿に見とれている隙に女の子は、真っ白くて柔らかそうな手を伸ばして、さっと2人のチケットを回収し、パチンパチンと音を立てた後、ダスティンのチケットが返された。
――――しかし、なぜかアランのチケットだけなかなか返されない。
「………?」
流石に違和感を感じた彼は、どうしたのかと思い不安げな顔で、女の子に話しかけようとする。
「…………あっ、あの~」
すると、その子は突如勢いよくチケットを彼の目の前に差し出して来た。
「!?」
「…………ほれ。受け取れ」
その何処か上から目線な喋り方と、何処か聞き覚えのある声を聞いて、彼の頭の中に、黒いパーカーを身に纏ったある者の姿が浮かんでくる。
――――いっ、いや! そんなわけないはずだ。……だって、あれは…………。
そんな事を思いつつも彼が返却された切符を受け取ろうとして、指が切符の先に触れるとその瞬間……!
(…………その切符は、降りた後も捨てずにちゃんと持っておけよ)
アランの頭の中に駅員らしき女の子の声が響き渡る。
「…………!?」
急いで彼が、彼女のいた方を確認しようと見てみると、その駅員は帽子のせいで目がしっかり見えなかったが、口角をニッコリと上げて、そしてそのままアラン達の傍から離れて行った。
「…………」
「なんだ? 今の?」
ダスティンは、不思議そうにその女駅員の姿を見続けた。
「……切符を持っていろって、一体…………」
アランは、その言葉が何を意味するのか、今後の不安と重なって、緊張が増していく。また、彼の頭の中に昨晩セリノが話してくれた事がよぎった。
「…………一体、どうなっちまうんだ。俺は…………」
今は、ただそれしか言えない。
――――アランは、この先に何か物凄いものが待っているんじゃないかというハラハラドキドキの不安、期待……色んな感情がミックスジュースのようにごっちゃに混ざり合ったような感情を心に抱くのだった。
「…………次は、アウトノ・フォリオ・オリギナーヤギ」
チケット回収が終わると、別の駅員がやって来てそう言った。――列車は、とうとう駅の近くまでやって来ているのだ。
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