第12話 勇者になろう!②

「使えない? …………どういう事だよ。それって、どうしてだよ!」


 アランは、ダスティンが語った事に困惑していた。…………彼にとって魔法という要素は、この異世界における数少ない希望の中の1つだった。

 ギルドは潰れ、スキルはなく……ダンジョンもほぼ消えていて、異種族の存在もない。彼にとって最早、異世界とは何の事だったのかと疑問でしかなかった。…………そして、とうとう残った希望の1つ。魔法も今、消えかかっていた。

 ダスティンの口が開かれる。


「当たり前だろ? この文明開化の進んだ異世界において、一般市民がむやみやたら魔法なんて使ってきたら上の人間は、困るだろ? …………今から7年位前に新政府の”経済発展大政策”によって魔法は、許可証がない限り使用できなくなった。…………元々、この世界では人の体内を流れるマナを使う事で誰でも簡単に使う事が出来たんだが、今じゃ使っただけで政府の開発した魔力探知機で場所を特定、んでもって懲役10年の高額の罰金ってわけよ」


「…………そっ、そんな」


「まぁ、そういうわけだ。分かったか?」


「…………」

 アランは、衝撃のあまり何も言えない。…………体から今ドンドンとエネルギーがなくなっていくのが彼には分かった。






 少しの沈黙の後、ダスティンは続けた。


「まぁ、最初は誰でもショックだよなぁ……。けど大丈夫だ。そのうち慣れる。…………さっ、コーヒー飲み行こうぜ」













 ――――結局アランは、その後ダスティンにかなり強く手を引っ張られてコーヒー屋へと連れられ、2人は静かにただ飲むだけの時間を20分近く過ごしていた。

 しかし、そんな時にとうとう沈黙に耐えきれなくなったのか、ダスティンは大きくため息をついて話を始めた。


「…………そう、不機嫌にならないでくれよ。君の考えは、間違っちゃいない。俺だってあのじいさんの苦しそうな顔を見るのは嫌さ。けどな、世の中それでも救えないもんもあるって事よ。…………仕方ねぇ」


 アランは、カップに入ったのコーヒーを一口飲むと渋い顔をしてダスティンの方を向いた。

「…………この世界は、色々変だ。こんなの異世界じゃねぇよ。ただの現実の延長戦だ。…………魔法もスキルも冒険もエルフも…………ワクワクする事は何一つないし。酒はまずいし、コーヒーの色はおかしいし…………」


 すると、ダスティンが笑って言った。

「ハハハ! 確かにコーヒーの色は変だよなぁ。今じゃこの色に慣れたが、確かに不気味な色だよ。…………実際、この世界のカカオ豆はデカくなってくると水色になっちまうらしいぜ」


「…………全く、本当に酷い世界へ来たよ。これなら、現実の方がよっぽどマシだ!」


 アランが、怒ってコーヒーを一気飲みする。前の世界と味は変わらないのでまずいなんて事はないのだが、やはりまだ色に慣れていない事もあって彼は、飲み込んだ後少しの間、吐き気に襲われた。


 それを見ながらダスティンは、顔色1つ変えずコーヒーを飲み干し、気持ち悪そうな顔をするアランへ話を続けた。

「まぁ、しょうがねぇよ。…………お前が異世界に行きたいと望んだから、されちまったんだ。今更、引く事なんて出来ねぇ」


「え?」

 それを聞いたアランは、さっきまでの気持ちの悪そうな青い顔が嘘だったようにポカンと口を開けてアランを見た。


「どうしたんだ?」

 ダスティンが尋ねるとアランは、また疑問を浮かべた顔で言った。




「…………俺は、してここに来たはずだ。一度死んでるぞ?」


 その言葉を聞いて、ダスティンは首を傾げて小さく「ん?」と言って、考え出した。




 そして、それから少ししてダスティンは言った。


「転生してきたんなら、どうして赤ちゃんの姿から始まらなかった? お前は昨日、やって来たばかりとそう言ったんだ。…………おかしいよ」


「いや、けど死神は、あの時確かに転生って…………」

 






 ――その後、2人は色々考え合ってあれやこれやと言い合ったが、結局答えは出ずに店を出る事にした。


 帰り際、ダスティンが「次は一週間後の午前10時に今日集まった所へ来てくれ」とだけ言ってその日は終わってしまう。…………謎は、深まる一方だった。

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