第10話 ダスとん③

 その女性は、突然現れた。彼女の雰囲気は、凄くクールでまるで男性なんじゃないかというくらい肩幅が大きく、その声も女性にしては低めで、しかし何処か優しさも感じる良い声だった。奇麗なサラサラの長い金髪が特徴的でとても美しい姿をしていたためにアランは、しばらく見とれていた。

 女性は、アランの肩に両手をポンっと置くと隣に座るダスティンの事をうざったそうに見つめて、話を続けた。

「…………ダメよ新入り君。こんなダスとんゴミ野郎の言葉に乗せられちゃ、わ。無難に求人を見つけて働きに行くとかするのが一番よ」


 女性の言葉は、最もだと思った。確かにこんなおいしい話は、あり得ない。彼は、そう思うようになっていた。




 …………しかしそうすると、それまで表情を崩さないでいたダスティンが急に立ち上がって、怒鳴り出す。


「黙ってろ! ゲイ野郎! 大事な話の邪魔をするんじゃねぇ! テメェは、他の所で男に媚びてろ!」


 その怒鳴り方は、それまでのダスティンのイメージと大きくかけ離れていて、アランはかなり驚いた。――――しかし、そんな彼をおいて女性とダスティンの口論は激しさを増していった。


「…………んだと、ダスとんゴミ野郎のくせに!」


「…………俺は、ダスとんゴミ野郎じゃねぇ! ダスティンだ! 分かったか? ポンカス野郎!」


「なっ! このぉ…………テメェ、いい加減にしやがれ! ミルク野郎! 表出ろ! ぶっ飛ばしてやる!」


「…………ヘッ! 上等だ! とうとう本性表しやがったな。ゲイ野郎!」


 2人は、とうとう怒りがマックスに達し、今にも乱闘が起こりそうになっていた。アランはこの間、1人どうすれば良いのかと戸惑っていたが、少ししてバーの店長がやって来て間に入って来てくれたおかげで、2人の喧嘩は終わりを告げた。


「…………次やったら2人とも出禁にするからね」


 その言葉で、ダスティンと女性はすっかり黙ってしまい、結局女性の方がアランの隣に座ってきたため、そのまま少しの間だけ3人は並んでお酒を飲んでいた。










 ――――それから、10分位経つのだろうか。


「…………すまない。一回、外に出ようか」

 ダスティンのその言葉によって、アランとダスティンの2人は店を出る事にした。…………結局支払いは、迷惑をかけてしまったからという事でダスティンが払ってくれた。




 ――――今2人は、真夜中の異世界都市を並んで歩いている。寒い風が、2人に襲い掛かってきたそんな時。ジャケットのポケットに手を突っ込んだダスティンが、声を震わせながら話しかけた。


「…………さっきは、そのちょっとデカくやりすぎたよ。でも、信じて欲しい。俺は別に君を騙そうとはしてない! 本当だ! …………君がオーケーと言ってくれば、ある人にもちゃんと会わせる」


 そこまで言うと、ダスティンは突然黙った。――アランは、彼が突然黙ってしまった事に引っ掛かり、ダスティンへ尋ねた。

「その……ある人っていうのは、一体誰なんだ?」


 すると、ダスティンは少しだけ黙った後に喋り出した。

「クリスって名前の奴だよ。…………この辺りでは有名な投資家だな。アイツは、人助けをしたがる人間でな、君みたいな新入りをこれまで何度も助けて、金持ちにしてきた人間さ。俺は、そのクリスに頼まれてこういう事をやってる」


「…………そんな人がこの世界に? その人とは、どうやったら会えるんだ?」


 すると、またしてもダスティンは黙り出して、今度は真剣な顔で彼の事をジッと見てきた。


「…………なっ、なんだよ」



「…………いや、どうやったら会えるかを話す前に、1つ。まだ聞いていない事があったよな?」


「え?」


「アラン、お前は結局さっきの商売の話に賛成してくれるのかい? それでイエスと答えればクリスについて知ってる事は全て話すし会わせてやる。会えば、きっと冒険者としての仕事も貰えるだろう。それでお前は大金持ちになれるし、女だって抱き放題だ。…………だけど、ノーと答えれば今までの話は一切なしだ。今すぐ俺の傍から離れてくれ」


「…………」

 アランは、そう言われると少し悩んだ。ダスティンの言う通りにするべきなのか。…………いや、しかし金髪の女性が言っていた事も少々気になる。


 彼は、ダスティンと真っ黒な夜の空を何度も何度も見て考え続け、――――そしてとうとう彼の目はダスティンの魔性の笑みを捉えて、告げるのだった。


「…………分かったよダスティン。……イエスだ。だから頼む! クリスに会わせてくれ! …………いや、俺を勇者にしてくれ!」


 こうして、アランは謎の男――ダスティンと契約するのだった。




 2人の具体的な契約内容は、1つ。ダスティン(以下、甲と呼ぶ)が、アラン(以下、乙と呼ぶ)のために仕事を探して見つけ次第、乙に報告し、乙が安心して仕事ができるように甲が全力でサポートする。


 2つ。乙が稼いだお金のうち3割は、甲へ渡す事。


 3つ。甲も乙もお互い言いたい事は、しっかり言う事。


 4つ。この契約は乙の方から解消する事はできない。

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