第6話 ギルド②

 






 ――――――そこは、とても酷い姿をしていた。荒れ果てたボロボロの建物。腐った木でできていて、まるで嵐の後の惨状のように壁も窓も屋根もボロボロ…………。敷地だけは無駄に広く、中もきっと凄く広いのだろう。

 そして、そこの周りには建物と同じく位と言っても良い位の汚いボロボロの服を着た髭がボーボー生えたカッコよさとは真逆の姿をした男達と、髪の毛や肌のケアが全然間に合っていない美しさと大きくかけ離れた姿をした女達の姿があり、彼らは皆、共通して丈夫そうな体をしていて、そして臭い。また、彼らは建物の近くに置いてある大きな3つほど見えるゴミ箱の近くに溜まってそれの中を漁ってはバナナの皮だとか食いかけのチキンの骨だとか腐りかけた魚の骨だとかを飼い主に捨てられた狂犬病の犬のようにむしゃぶっていた。


「…………なっ、なんだ。ここ…………」

 新井信が、そこに辿り着いた時、彼の心はすぐに絶望へと突き落とされた。さっきまでの近代化が進んだ前の世界とよく似たしかし、若干違う所もあったようなそんな希望と夢の場所とは一転。ここは、もう全くの別世界だった。


 ――彼は、ようやく理解したのだ。この町の外れにある暗くて汚い文明開化に置いてかれたような場所へ来てとうとう、自分が異世界に来てしまったのだと理解できた。


「…………そんな。嘘だ。…………あの女は、きっと俺に嘘をついたに決まってる」

 着いたばかりの頃は、まだこんな独り言も言える位の余裕だけはあった。



 ――――しかし、彼が現実逃避をしようと建物から目を離して視線を上に上げたその瞬間、目の中に大きな看板とその文字が入り込んでしまった。

 ――あぁ、もう逃れられない。…………そう彼が悟った時には、既に体が無意識にも動いて、建物の中へと入りこもうとしていた。



 ――――ガチャッ!


 ドアを開けて中へと入って行く。体が室内に入りきる前から感覚と本能で、中が外と同じ位暗くて閉塞としていて、臭いが凄いのか分かってしまう。


「…………!」


 しかし、もう後には引けない。今更、引き返してこのドアを閉めてやっぱりさっきの町へ戻ろうとしても自分にはやはり”金がない”のだから。戻ったとしても、自分はきっと最初に出会ったおじさんのように惨めに……そう、前の世界よりも酷い最低な生活をしていく羽目になる。


(…………二択なようで、こんなの一択じゃないか)


 呆れた顔で、しかし何処か興味もある。そんな顔をして彼は、そーっと中へ入って行く。




 ――――ガチャッンン!! 




 黒いドアが閉められ、彼は闇の中へと消える。…………こうして、彼はとうとう目的地である建物へと到着し、その中にまで入り込んでいくのだった。


 …………後になって彼は、後悔するだろう。自分がこの選択を取った事は、果たして本当に正しかったのか? 自分には、他の選択肢があったんじゃないか?…………と。



 しかし、まぁ……どちらを選んでも結果は変わらない。それが現実なのだろう。








 ――――彼が、建物の中へ入って行ったすぐ後に外では大きな風が吹き始めた。それは、ビュービューと、とても大きい音を立てて、あらゆるモノを吹き飛ばしてしまいそうだ。

 そんな中、建物の外にいたボロボロの格好をした人々は、すぐに身に纏っている薄い布を限界まで伸ばして体いっぱいに被り寒さや風の影響で飛んでくるものからから身を守ろうとする。

 …………しかし建物は、被るものも守ってくれるものもないためボロボロになった木の破片などが変わらない空の景色へ吹き飛んでいく。そんな中、とうとう建物の上についていた大きな看板が、ぷらんぷらんとアンバランスな感じで風に吹かれていくうちにベリッと音を立てて外れてしまう。



 …………その板は、空へ舞い上がる事なく、一気に落下し地面に落ちる。それから引きずられるように町の端へと吹き飛ばされた。




 その板には大きな文字で「冒険者ギルド」と書かれているのを誰も見る事もできずに…………。

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