第2話 転移②

「さて、いつもの言わなきゃならない事は伝えたし、次は…………」

 美少女の死神が悩んだ顔で考え出す。




「…………あぁ、そうだ。死因だ。……お前の死因と前の人生だがな…………」

 死神は、目をぱっちりと開けて突如可愛らしく思い出したといっているような感じで話し出す。しかし…………。


「…………俺の、俺の人生は最悪だった。学生時代はいじめられ、勉強もろくにできず、そのせいで大学には結局いけず、仕方なく就職をと思って動くもうまくいかず、3年間アルバイトで生活してようやく職にありつけたと思ったらそこは、最低な職場で…………もう最悪だった。俺は、それで耐えきれなくてある時、偶然読んだライトノベルに書いてあった死んだら異世界にいけるっていうのを知って…………結局やけくそになって死んだ。…………死因は、確か首吊りだったな」


「…………ほぉ、よく覚えてるな。お前、クズのくせに記憶力は良いんだな」


「…………良かったら今頃、一流大学の首席だろうな」


「まぁ、何でもいい。とにかく、それだけ覚えてるならここの説明はまるまるカットだな。…………よしっ、次だ。次は、うむ。”転生開始”だな」


「え?」

 死神の突然の言葉に彼は驚いた。


「もう始めるのか? …………俺の読んだ話だと、この後アンタが、俺にぶっ壊れスキルとか強い武器とか渡してくれるんだろう?」

 彼は慌てて立ち上がり、焦った表情でどういう事かと死神に質問をする。


「何を言っているのだ?」

 しかし、そうは言われても死神は逆に何のことか分からないと言うような顔で聞き返し、そのまま続けた。


「…………そんなものがあるわけなかろう。意味不明な事を言うでない。だいたい、スキルというのは君が自分で身に着けるものだろう? 私が君に与えるなんて事はあり得んよ。」


「…………」

 途端に彼の気持ちはずぅぅぅんと沈む。その表情はとても暗く、悲しそうだった。


 ――それを見て、死神は何かを思い出したように彼へ答える。


「…………私からは何も与えられんが、まぁでも魔法位なら使えるぞ」


「…………!」

 その言葉を聞いて、暗かった表情が徐々に輝きを取り戻す。彼が下を向いたまま少し笑ってグッと拳を握って軽くガッツポーズを決める



――それを見て、死神は少し安心したような顔で告げた。


「…………それじゃあ、転生を始める。転生だから、まぁ色々慣れない部分とかも多いと思うが…………まっ、そのうち向こうでの生活にも慣れてくるだろう。…………とりあえず、頑張ってこい」


「はい。行ってきます! 俺の夢を叶えるために!」


 ――シュゥゥゥゥンン!!


 すると、途端に彼の姿は消える。さっきまで賑やかだった空間は、一気に静かになり、そこにはぽつんと美少女死神だけが残っていた。





 ――――誰もいない空間で、彼女は独り言を言い出した。


「…………あぁ、間違えた。転生じゃないんだ。……この場合は転移と伝えるんだった。…………まぁ、意味はだいたい合っとるし、問題はないだろう」

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