勇者は二度、死ぬ。〜転移したところでもう遅い〜

上野蒼良@作家になる

第1話 転移①

 何もない暗い空間の中で彼=新井信あらいしんは、目を覚ました。


「ここは…………?」

 寝ている体を起こし、辺りをキョロキョロ見渡してもそこには、誰もいない。――というより見えなかった。




 ――と、そんな時、不意に紫色のオーラのようなものが彼の目の前に現れた。


「…………なっ、なんだ!?」

 彼が驚きのあまり尻餅をついてしまうと、そのオーラのようなものが徐々に薄くなっていき、やがて中から人の形をした何かが現れた。


「…………?」

 彼が不思議そうにその人間らしき姿をジッと見ていると、やがてその姿がより鮮明に見えるようになる。




「…………え? えぇ!!」

 そこに現れたのは、全身が骨でできた黒いパーカーを被った不気味な怪物。


「こっ、これって!? まさか! 死神!?」

 またも驚いた彼は、尻餅をついたまま急いで体を死神から離していく。


 ――――そうやって、突如現れた謎の異形の存在から離れて行く中、心臓をブスっとえぐるような大きな声がその空間に鳴り響く。


「落ち着け!」



 その言葉と共に、不思議と彼の中の恐怖心が和らいでいく。


「…………なっ、なんだよ! いきなり出てきて! ほねほね野郎!」

 必死に抵抗しようと負けじと大きい声を出すも彼の声からは、死神の発したような覇気はなく、弱弱しい。


「…………はぁ」

 死神は、大きくため息をついた。――それを見た彼は、またなんともいえない恐怖から来るどうしようもないイライラを死神にぶつけようとする。……が、今度は彼が文句をぶつけようとする前に死神の方が口を開いた。


「…………これだから人間は」

 そう言うと死神は、自分の顔に手をあてる。


 ――死神の顔の周りを紫のオーラが包み、そして短時間のうちにそのオーラがまた薄れていく。


「…………え?」

 そして、オーラが完全に消えるとさっきまで骸骨だった顔は、不思議な事に人間の――それも美しい少女の顔となっていた。


「…………どっ、どういう事だ?」

 彼が、ポカンとその光景を見ていると表情を得た死神は、めんどくさそうな顔で喋り出す。


「…………今、何が起きているかとか、ここは何処なのかとかは、後で話す。とりあえず、アタシはお前にまず言わなきゃならない」


 ――死神の真剣な目が彼を見つめる。そして、彼の目が瞬きを終えた瞬間に死神は告げた。


「お前は、さっき……人類の”時間”で言う所の2021年12月26日午後3時30分に死んだ。…………そして、今後はこの世の全ての生命の義務として、別の世界への転生をしてもらう」


 美少女死神が、真剣な顔で彼に注げると尻餅をついた無様な格好の彼は、口元をいやらしく横に広げて心の中で笑った。


(そうだ。……思い出したぞ。俺は、ラッキーだ。やったぞ! これで、真の勝ち組人生の到来だぁ!)





 彼は、この時まだ理解していなかった。これが、青春の終わりを告げる言葉だったと…………。

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