第33話 星崎先輩からの依頼

11月21日 月曜日 17時00分

私立祐久高等学校 生徒会室


#Voice :鹿乗かのり 玲司れいじ



 緋羽は、逃げるように駆けだして行った。

 星崎先輩は小さくため息をついた後に、

「しかたない。善後策は後で何とかするから、切り替えていこう」

 と自身に言い聞かせるようにつぶやいてから、う~んと伸びをした。


「今度は、野入のいりくんか。えっと、鹿乗くん、キミはこの野入くんを知っているの?」

「はい。彼も同じクラスですから」

「また、1年2組なの?」

 声をあげてから、星崎先輩は考える仕草のあと、パソコンに向かいキーボードをたたき始めた。


 そして――


「10年以上も昔のまとめサイトなんだけど…… 萩谷さんがタブレットパソコンにインストールさせられたの、このアプリじゃないのかな?」

 と、画面を見せられた。


 Wellcom to the "Curses Circus Qubit" !

 ようこそ、量子化された呪いたちのサーカスへ


「なんですか? これは?」

「やっと見つけたの。Windows8 対応アプリ、『ギュービットさん』に関わるまとめサイトよ」


 俺は、星崎先輩にパソコンの前の席を譲られて、サイトを確認した。

 デザインがどこか古臭いが、必要な情報は読めた。


 このまとめサイトにあったのは、平成26年冬にとある高校でも同様の事件が起きていた。ただし、怪我人が数名出た程度で、むしろ集団パニック事件として報じられていた。

 ショックで失神した女子生徒数名が救急搬送された程度だ。


 だが、画質の荒い画像がスクリーンショットとして添えられていた。

 それが、『Wellcom to the "Curses Circus Qubit" ! 』だ。


「当時は、まだ新鮮だったタブレットパソコンで、電子化されたコックリさんを遊べるようにしたアプリらしいわ。でも……」

 と、星崎先輩が口ごもった。


「SMS認証機能ですか?」

「うん。ショートメッセージサービスは昔からあるけど、多要素認証なんて最近の流行りだよね? アプリはいまもメンテナンスされている可能性もあるのかな? だって、最初はアイディアだけのジョークアプリだったみたいなの」


 まとめサイトの記事を見た限り、生徒たちが集団パニックを起こして、暴れるなどした男子がケガをしていた。

 それ以外は、ショックで失神した女子生徒が少しいる程度。オカルト系のネタを扱うまとめサイトだったから、大袈裟に取り上げているが、実際のところはあまり目立つ実害はない。

 だが、いま、俺たちが対峙しているのは、紛れもなく危険な呪いアプリだ。


「呪術に関する知識と、Windows環境でのプログラミングスキルの両方を合わせ持った技術者が、このジョークアプリを改造して、ネガティブな目的の下に作りだしたものじゃないかな?」

 星崎先輩がいう言葉は、推論が多分に含まれている。だが、辻褄は合う。


「まずは萩谷さんのタブレットパソコンを見つけなきゃね。危険なアプリが走ったままなら放置はできないもの。

 それに、呪いの支配に侵された生徒たちを救うにしても、対策を考えるには、アプリ本体のソースコードか、実行ファイルが必要だと思うから」

 確かに、籠川や萩谷、緋羽の様子は、おかしい。アプリの洗脳にかかったままだとみて間違いないだろう。


「えっと、私、野入くんとは面識ないの。鹿乗くんにお願いして良いかな?」

「はい。明日にでも彼と話して、問題のタブレットパソコンの行方を聞き出します」


 星崎先輩は、さきほど飯野緋羽に突き返されたお守り鈴を、俺に手渡した。

「もうひとつお願い。この鈴を緋羽ちゃんのスクールバッグにこっそり放り込んでほしいの。さっき、お守り鈴と緋羽ちゃんを結びつける手順は済ませたから、身につけていたら守れるはずだから」

「はい。でも、なぜ、スクールバッグに?」

「本当は緋羽ちゃんのポニーテールに結びたいくらいだけど、あの様子じゃムリでしょ。あと、制服に隠し入れてもお洗濯されるとバレるから」

「なるほどです。スクールバッグなら登下校時は携帯しているし、教室でも机の傍にある。クリーニングに出される心配もない」

「そういうことよ。お願いしますね」


 だが、翌日、俺は頭を抱えたくなるような報告を、星崎先輩に入れることになる。

 俺としたことが、この2件の依頼を失敗したんだ。

    

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る