第25話 影の呪いは再び
11月17日 木曜日 17時40分
私立祐久高等学校 生徒会室
#Voice :
さすがは、学園随一のカリスマと呼ばれる星崎先輩だと、俺は素直に感心した。
警察へ微妙に嘘を混ぜた事情を話し、籠川を保護が必要な被害者に仕立てた。
さらに、先生方へも事情を上手く改変して説明した。
真に感心すべきは、呪いのアプリのことには触れずに、微妙に嘘を混ぜていることだ。バレても嘘とはならない嘘だ。
つまり、充分に事情を知らないまま対応しているから、憶測で話したことが、結果として、間違いだった。そういうパターンで説明ストーリーを構築していた。
警察に籠川を預けて、作り話をするなら、当然、そんな慎重さが必要だ。
つまり、星崎先輩の立ち位置は―― 生徒会書記として、後輩の生徒を気遣う親切なお姉さん的なポジションを作っていた。
「今日はありがとうね。また、遅くまで付き合わせてしまったし」
「いいえ。籠川は俺たちのクラスメイトですから、お礼をいうのは俺の方です」
えっ?
照明を消した生徒会室は、夕闇に落ちていた。
突然、星崎先輩が照明を消したのだ。そのまま、壁際へ歩いて、俺を振り向いた。
「スマホにライト機能あるでしょ。それで私を照らして」
「まさか、またですか?」
星崎先輩のふんわりと話す言葉に従った。
スマホをタップして、ライトを付けた。
星崎先輩に向けた。
「なっ……っ!?」
驚きに思わず声を漏らしていた。
星崎先輩は、平気な顔で笑っている。
「さきほど、ふたりきりでお話ししているときに、やられてしまったの」
私も、お守り鈴を身に着けているから、大丈夫だけど、これ、呪いだから、早めに解いておきたいな、と」
星崎先輩が、あの粘土ハサミを手渡してきた。可愛いピンク色をしたプラスチックのハサミだ。
「これで影を切って」
生徒会室の壁に写る星崎先輩の影には、カッターナイフのような影が、何本も刺さっていた。
「籠川のやつ、許せない」
「待って、これも呪いのアプリがしたことなの。籠川さんは操られている。だから、警察に引き渡したの」
星崎先輩が、俺の怒気を遮って笑う。ふんわりと。この人には、敵わないと感じた。
おもちゃのハサミで、星崎先輩の影に刺さった鋭利な影を切った。
切られた影から、一瞬だけ、呪詛の言葉らしい文字が飛び散り、消えた。
「ということは…… 萩谷も、まさか?」
俺は、明確に顔をしかめていたはずだ。
「残念だけど…… 可能性は、否定できないわ。でも、もしかしたら?」
と、星崎先輩は思案を巡らせるように、少しの間、瞳を閉じた。
そして、艶やかな黒髪を揺らした。
「ううん。いまは、萩谷さんを疑うのは適切じゃないと思う。お話をして、お守り鈴を届けることが先決かな?」
星崎先輩には、俺は叶わないと思った。
繰り返し怪異を見た。俺の中に、恐怖という濁りが溜まっていくのを感じていた。
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