第16話 星崎先輩の部屋で話し合ったことは、異常です
11月16日 水曜日 16時50分
私立祐久高等学校 駐輪場
#Voice :
翌日、下校しようとした俺を、星崎先輩が自転車置き場で待っていた。
気づかなかったフリをして、自転車に跨って帰ろうとした。
「鹿乗くん、あと、もう少し、付き合ってくれますか」
だが、俺の背中を、星崎先輩が呼び止めた。
「まだ、気になることがあるの、お願い」
日本人形のように美しい星崎先輩に頼まれたら、断れない。俺は自転車を駐輪場へ戻した。
そして、星崎先輩の後をついて、同じバスに乗った。
さらにバスを乗り継いで、町外れの神社へとたどり着いた。
◇ ◇
11月16日 水曜日 17時30分
鈴守神社 社務所
#Voice :
田んぼの中に丸い森がある。
鈴守神社と表札が建てられていた。
石造りの小さな鳥居をくぐり、森の中を歩んだ先に、小さな神社がある。星崎先輩は、何食わぬ顔で、その社務所へ入っていった。
「どうぞ、入って。私の家だから」
「え? 社務所が……」
「そう、私は、ここの神職の娘なの。話してなかった?」
聞いてない。
面食らった俺は、とりあえず星崎先輩に案内されるとおりに、社務所の中を進んだ。社務所に住居が併設されている感じだった。
そして、曲がりくねった廊下の先、星崎先輩の部屋は完全に和室だった。
こたつに座布団を出されて座った。
「よいしょっと」
星崎先輩が大判のノートパソコンを押し入れから引っ張り出した。国内有名メーカーのゲーミングパソコンだった。
「星崎先輩、これ、すごい」
「言わなかったかな? わたし、これでもeスポーツが趣味なの」
全然、聞いてない。いま、初めて聞いた。
ちりん
小さな鈴の音がした。
星崎先輩が、ピンク色のUSBメモリーを取り出した。あの衝撃的な動画をコピーしたUSBメモリーだ。
「ごめんなさいね、付き合わせてしまって」
星崎先輩が微笑した。
高根の花、カリスマ的美少女の私室に案内されたというのに、急速に高揚感が消えた。あの薄気味悪い動画をまた見ることになるのか。
「鹿乗くん、最後のシーン、音量を最大に上げてもう一度再生してみて」
セッティングが終わったパソコンへ、USBメモリーを差して星崎先輩がいう。
再度、再生した。
正直、画面はもう見たくない。
だが、ノイズだらけの音声の中に、声がした。
『――そんな、木瀬さんが、まさか……』
女声だ。
ひどく狼狽した震え声が、漏れた。
直後に録画が停止している。
「きっと、デジタルビデオカメラを操作していた撮影者の声だと思う。旧校舎までは距離が遠いから、木瀬さんの声は拾えないから」
俺が首肯すると、星崎先輩はマウスに手を添えて、動画を巻き戻した。
「ここ、木瀬さんが渡り廊下から電話をかけ始める場面だけど―― 耳を澄まして良く聞いてね」
――!
微かにスマホのバイブレーションが鳴動する音が聞こえた。
木瀬が電話を始めてすぐだ。
動画の中では、瞬く蛍光灯の灯りの中で、木瀬が怯えたようにスマホを操作していた。木瀬がスマホを耳に当てた。
スマホが鳴動する音が微かに続いている。
おそらく動画撮影者のスマホは、カバンの中にあるのだろう。
微かな鳴動音に、本当に微かに、くすりと
つまり、木瀬のスマホの発信履歴の1番目にある番号の持ち主が、この動画の撮影者である可能性が高い。そして、この動画と、木瀬のスマホはともに警察が証拠として押収している。
「警察は優秀だから、この音声にもう気づいていると思う。だけど、一瞬だけ。音も小さいしノイズだらけだから……」
星崎先輩は困ったように、小首をかしげた。
「特に、声については、すぐには誰の声なのかは判明しないと…… 思うけど」
最後は、少し自信なさげな声だった。
「気を付けてほしいのが、ビデオ撮影をした人は少なくとも殺害の実行犯ではないということ。離れた場所にいたアリバイも同時に成立するから」
星崎先輩がくぎを刺した。変に犯人扱いするなということか。
「うん。それに、わからないの。このビデオに残された声の主は、かなり驚いて動揺している様子なの。この動画も即消して、きっと逃げるように生徒会室を出たんだと思う。だから、デジタルビデオカメラの仕舞い方が乱雑だったから、私が気付いたんだけど……」
星崎先輩は、考え事をするとき前髪を掻き上げる癖がある。綺麗な
そして言葉をつづけた。
「2件目の名倉くんの事件を、この動画の撮影者が起こしたとは、到底思えないの」
この段階で、俺と星崎先輩は木瀬の殺害動画の撮影者が誰なのか、わかっていた。身近な人物だったから、ほんのひと言でも声に聞き覚えがあった。
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