第15話 内津刑事は説明を受け入れた

11月15日 火曜日 18時50分

私立祐久高等学校 南棟2階 パソコン室


#Voice :鹿乗かのり 玲司れいじ


「生徒会室の備品のデジタルビデオカメラに無断用された形跡があり、気になって記録媒体を確認したところ、こんな映像が写っていたと……?」

 教職員からの電話で駆け付けた内津刑事は、俺を睨みつけるように言った。


「そうです。でも、デジタルカメラの利用履歴を調べることを指示したのは、私です」

 星崎先輩が、俺と内津刑事の間に割って入った。


「なぜ、なんだ? このデジタルビデオの中に、犯行の証拠が写っていると、なぜ、わかったんだ?」

 内津刑事が迫る。

 だが、星崎先輩は怯む様子もない。


「生徒会備品の管理は、書記長である私の仕事です。11日金曜日の下校前に充電を行い、管理簿に記載しました。なので、月曜日に無断使用の痕跡に気づきました」

 星崎先輩は、生徒会の備品を勝手に持ち出して、ちゃんと返却しない生徒の多さについて、ひとしきりお小言を言った。

 特にデジカメ類は無断使用者が多い。このため、可能ならば、データを確認して利用者を特定、指導している。画像を確認すれば、写っているモノでどの部活動で使用されたのかは、見当がつく。画像を突き付ければ、相手は無断使用を詫びるしかない。自分たちの顔が画像データに残っていれば、これ以上の証拠はない。


「充電が減っていましたし、収納の仕方が変わっていました。管理簿には記載がないので、悪質な無断使用と判断しました」

 最近は、データを削除してごまかす生徒もいるため、あやしい場合には、削除データの復旧を試みていると、説明した。


「で、ファイルを開いたら、とんでもないモノが写っていたと……」

「ええ、そうですわ」

 星崎先輩は涼しげに答えた。


 内津刑事は、一瞬、苦虫を潰したような顔をした。だが、辻褄が合うので説明を受け入れたらしい。すぐに態度を改めた。

「捜査協力に感謝します。このデジタルビデオカメラは預からせて頂きますが、これに触れた生徒はわかりますか?」

 内津刑事が、証拠品としてビデオカメラをビニール袋にしまい、尋ねた。


 一瞬、どきりとした。

 先ほど、俺はこのビデオカメラに素手で触っている。指紋なら、べたべたについているはずだ。


「わかります。生徒会メンバー全員が触る可能性があります。あと、貸し出した先の部活でも使用されています。管理簿もお持ちになりますか?」

 内津刑事は、苦笑いした。管理簿には、今月だけでも10件以上の貸し出し記録が記載されていた。中には他校との交流戦まである。


「あの、生徒が動揺しますから、このビデオカメラのことはご内密にお願いします」

 星崎先輩が、微笑んで見せた。

 削除されているとはいえ、このビデオカメラには様々な部活動の記録が収められている。警察の手で復元を行うなら、削除データの少なくない数が復旧されるだろう。


「ああ、当然だ。これは重要な証拠品になる。みなさんもどうかご内密にお願いしたい」

 内津刑事が、星崎先輩の言葉をそのまま返した。

 教師陣を含めた俺たち全員がうなずいた。


「それから、こちらが我々への連絡先になります。さすがに毎度、パトカーを学校に着けるわけにはいかないでしょうから。何かありましたら、こちらの連絡先にお電話ください」

 内津刑事は、先生と俺たちのそれぞれに名刺を残していった。

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