第14話 デジタルビデオカメラに写っていたもの
11月15日 火曜日 17時40分
私立祐久高等学校 南棟2階 パソコン室
#Voice :
俺は、見てしまった凄惨な画像に、息を詰まらせた。
つい先日まで同じクラスで机を並べて共に学んだ仲間が、あり得ない死に方をしていた。まるでトマトケチャップのチューブを乱暴に握りつぶしたように、紅い物が飛び散っていた。ただ、単純な驚愕が俺を支配している。
「先生に知らせないと……」
「待って」
今度は別のUSBメモリーが差し出された。ピンク色で、ステック状のケースの端には、小さな鈴が結ばれていた。
「いまの動画、こっちにもコピーして」
俺は、いわれたとおりに動画をコピーした。気持ちが動転していて、考えずに星崎先輩のいうとおりにした。
その作業が終わると、星崎先輩はすぐに職員室へ内線電話を掛けた。
真理子先生の他、数名の教職員がパソコン室へ走ってきた。
俺と星崎先輩は、この動画に気づいた経緯を説明し、先生方の立会いの下で再度、再生した。
それは、この新校舎、教務棟4階隅にある生徒会室の窓から、望遠で旧校舎を撮影した動画だった。最大望遠で夜間撮影だから、画像は荒く、デジタルでも補正しきれない手振れが残っている。
それでも、写っているのが木瀬冴香であり、何かに怯えて逃げ惑う有様が記録されていた。最大望遠なので音声はない。
だが、パニックに陥った木瀬が、次々と手当たり次第に電話をかけているらしい様子は、荒い画像越しに撮れていた。
そして、問題のラストシーン。
木瀬が隠れていた渡り廊下の照明が消えたとたん、木瀬は狂ったように全力で走り出した。そして、まるで見えない何かに阻まれたように、いきなり向きを変えて、旧校舎側に追い込まれていく。
外階段をあがり始めた。
息を切らした様子の木瀬が、2階と3階の中間にある踊り場の隅、薄暗い蛍光灯の下に、まるで何かに囲まれて進退窮まったかのように、立ち尽くしていた。
「この階段の踊り場が、事件現場です」
先生方から声が漏れた。
次の瞬間、木瀬の左手がぽっと明るく光った。木瀬が握りしめていたスマホだ。
聞き及んでいる話を総合すると、最後に電話を掛けた相手、萩谷が電話に出たのだ。電話が繋がったことを知らせるためにスマホ画面が点灯し、おそらく萩谷の声がスピーカーから流れたのだろう。
その瞬間、木瀬の周囲の空間が蜃気楼のように、ぶれた。
木瀬は死んでいた。
ニンゲンの形をしていなかった。
ざらついた荒い画像越しにも、即死だとわかる有様だった。
外階段はおろか、旧校舎の壁にまで紅い鮮血が飛び散っていた。
不思議と悲鳴はなく、全員が息を詰めて画面を見詰めていた。
録画はここまでだった。
再生が終わった。
先生方から、ため息がいくつも漏れた。
「これは、警察へ伝えるべきでしょう」
「しかし、最後の肝心の場面が手振れで何も映っていないとは……」
動画再生の間、息を殺していたせいか、動画再生が終わったとたん、先生方が口々にしゃべった。
「星崎さん、鹿乗くん、今度からは何かあれば、先に先生に伝えてください」
最後は真理子先生だった。声が震えていた。この責任感の強くて気丈なところは、好感が持てる。
学年主任の黒部先生が、パソコン室を出て職員室へ走り出した。おそらく教頭か校長先生と相談の後に警察に連絡するのだろう。
真理子先生は、両手で顔を覆い、ぐずれるようにその場に座り込んでしまった。
無理もない。
自分が受け持つ生徒が惨殺される瞬間を、見てしまったのだから。
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