幕間劇 ふわふわ。ぽかぽか。
ここは、すごくあたたかい。まっくらで、何も見えないけれど、すごくほっとする。
わたしは、気づいたらここにいた。まっくらで、あたたかくて、ふわふわしていて、ぽかぽかしている。
―――
何かきこえることに気づいた。ずっと、遠くで、何かがきこえる。
たんたん。かたかた。じゃーっ。ぐつぐつ。
なんの音だろう。
声もきこえた。すごく遠くて、なんて言っているのかは分からない。でも、だれの声なのかはすぐに分かった。
おかあさん。
わたしはせいいっぱい、おかあさん、とよんだ。そうすると、もっとぽかぽかした。
べつのだれかの声もきこえた。これも、だれの声なのかはすぐにわかった。
おとうさん。
だいすきなおかあさんと、おとうさんの声だった。
ふたりの声や、いろいろな音は、どんどん大きく、はっきりきこえるようになった。わたしは足がうごくようになって、足がとどくばしょをけることができるようになった。
そうしたら、ふたりが笑ってくれたから、もっとけるようにした。そうしたら、おかあさんがくるしそうだったから、やめた。おとうさんが「いい子だ」って言ってくれた。
よく分からないけど、わたしはうれしかった。
―――
ふわふわ、ぽかぽかしているけれど、けっこうせまくなったなぁ、とわたしは思った。おかあさんの声は、とっても近くからきこえるようになった。
もうすぐ、おかあさんに会える。そう思うと、わたしはもっともっとうれしくなった。
―――
ある家に若い夫婦が住んでいた。妻のお腹は大きくなっていて、夫は妻のお腹を優しく撫でている。
「男の子と女の子、どっちだろうねぇ」
夫は優しそうな笑顔でそう言った。
「陽人くん、生まれるまで自分たちでも秘密にしとこうって言ったのに気になるの?」
「そりゃ気になるでしょ」
「どんな子だと思う?」
妻の言葉に、夫は嬉しそうに考えながら応える。
「薫に似たら、きっと足の速い子になるんじゃない?」
夫の言葉に、妻も笑いながら返した。妻は高校時代、陸上部で長距離走の選手だった。
「じゃあ、陽人くんに似たら、小さな画伯かなー?」
「うちに画伯が二人もできちゃうのか」
そう話すと、夫婦は小さく笑った。
「でも、どんな子でもいいよ。元気に生まれてきてくれれば」
「それもそうだね」
妻はそう言うと、大きくなった自分のお腹を撫でる。
「急がなくてもいいから、元気に生まれてきてね」
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