第15話 セネット家の血
「お嬢様、お疲れではありませんか?」
モーガン殿の足に治癒魔法をかけた後、ユーニスが声をかけてきた。彼女は私が考えている事を理解してくれる力強い味方で、今回の事も彼女に相談して実行したのだ。彼女も王妃様の侍女をしていただけあって、人の機微に敏い。彼女もまた、辺境伯の護衛団の空気を敏感に感じ取っていたのだ。
「ありがとう、ユーニス。でも大丈夫よ。あれくらいでヘタレる私じゃないのはあなたが一番知っているでしょう?」
「まぁ、それもそうですわね」
第一騎士団の四人は、二人に治癒魔法をかけた事で私への心証はプラスになった。完全に味方とは言い切れないが、少なくとも王都の私の噂をそのまま信じ続ける事はないだろう。そこはビリーもさりげなく情報を操作して、彼らの考えを上手く誘導してくれていた。
まぁ、誰かに脅されていた場合、私に刃を向ける可能性はあるけれど、今は辺境伯の護衛団がいるから、簡単には手が出せないだろう。
「でも、モーガン様が味方になってくれるでしょうか?」
「まぁ、売った恩は小さいけれど…治癒魔法のインパクトは大きいと思うわ」
「確かに。王都では割と認識されていますけど、地方ではお伽噺みたいな扱いですからね」
そうなのだ。治癒魔法を使う聖女は素質がある子が見つかると、殆どが王都の神殿に集められてそこで修行をする事になる。聖女の地位の条件は神殿に所属する事なので、基本的に王都から離れる事がないのだ。聖女になれなかった子も、王都にいればいい縁談が来るので故郷に帰る子も稀だ。たまに故郷に帰ったり、地方に移住したりする人もいるが、それは異例中の異例と言えるだろう。
「使い過ぎては有難味が減りますから、程々にお願いしますね」
「ええ、分かっているわ」
そう、過ぎた力は一歩間違えば逆効果だから、まだ大っぴらにする必要はない。今は味方になってくれそうな、信用出来そうな人だけでいいのだ。
実はこの力、対外的には大した事がないと言っているけれど、大違いなのだ。多分私は、この国の聖女の中でも最高の力を持っていると思う。魔力量もそうだけど、その質も。私がエリオット様の婚約者に選ばれたのも、この力のせいだった。
この聖女の力は、我がセネット家の血に関係している。実はセネット家は、聖女の血を受け継ぐ家系なのだ。神殿で管理されている聖女の力が子に受け継がれる事はない。力が現れるのは女児と言うだけが共通で、貴族だろうが平民だろうが、王都だろうが地方だろうが関係ない。血筋や地域性に左右されないし、髪の色や目の色、肌の色などの外見的な要因も関係ないのだ。
そんな中、唯一その力を血で受け継いでいるのがセネット家だ。セネット家の祖は、建国時に新王となった初代国王陛下を支えた聖女だと言われている。青みがかった銀髪と紫の瞳を持った聖女は、圧政を敷いていた当時の国王を倒し、新王国を興した国王をその力で支えたという。建国後、聖女は王の側近の一人と結婚したが、それが初代セネット侯爵だった。
そのせいかはわからないが、我が家には稀に聖女の力を持った娘が生まれた。セネット家は青みがかった銀髪と紫の瞳の色を持つ者が多く生まれるが、聖女の力を持つ娘は決まってこの髪と瞳の色を持っていた。ちなみに男性でもセネット家の色を持って生まれてくるが、聖女の力が出る事はない。実際、この色を持つ父や、血を引きながらも母の赤金髪と黄緑の瞳を受け継いだメイベルには、聖女の力は現れなかった。
聖女の力については、一番最近では私の祖母がその力を持っていた。美しく有能で聖女の力を持っていた祖母は、当時王太子だった前国王陛下に想いを寄せられていたと聞く。でも一人娘だった祖母は、セネット家を絶やす事は出来ないと、親が決めた相手と結婚した。
この様な事があったせいだろうか。私は当時国王に即位されていた先代陛下のご希望もあって、エリオット様の婚約者にと請われ、王家との繋がりを希望した両親は二つ返事で了承してしまった。多分、家督はメイベルに継がせ、厄介者の私を追い出したかったのだろう。
まだ健在だった祖母はセネット家が途絶えると大反対したけれど、セネット家の色と力を疎ましく思っていた父と、セネット家の力を王家に取り込みたい王家の思惑が一致して婚約は成ってしまった。
まぁ、まさかエリオット様が婚約破棄を言い出し、代わりにメイベルが嫁に出るとは覆わなかったけれど…セネット家もこれで終わりなのだろう…ううん、もしかしたらエリオット様への罰として、セネット家への婿入り…なんて可能性があるかもしれないけど。
王家にとって損はないのだろう。残念ながらエリオット様はダメだったけど、代わりに王弟殿下が私を娶れば、セネットの血を継いだ子どもを王族に迎えられるのだから。
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