第13話 辺境伯からの迎え
襲ってきた犯罪ギルドの請負人達を自警団に引き渡した私達は、彼らの提案を受けて辺境伯からの迎えを待つ事にした。その方が絶対的に安全だからだ。いくら王都の第一騎士団の騎士を護衛に従えているとはいえ四人しかいないし、これから先、険しく人の往来の少ない山道をこのメンバーで進むよりは、迎えに来て頂いた方がずっと安全だからだ。
ただ、その話がこの街の監督官の元に行ったのだが、そこでちょっとしたトラブルになった。王命で辺境伯と結婚する話がまだこの地に伝わっていなかったため、私達がその旨を告げると、逆に不審者に見られてしまったのだ。
でもまぁ、それは仕方ないだろう。普通、貴族、それも侯爵家の令嬢が結婚する場合、婿側が迎えに上がるのが一般的だから。まさか花嫁が、いくら第一騎士団とは言えたった四人の護衛だけで自ら出向くなど前代未聞なのだ。
それもあって街の監督官は、私達が詐欺師の一行だと疑ったらしい。その為丸一日、宿で軟禁される羽目になったのだ。最終的には王家の紋章入りの書状と、護衛の四人が第一騎士団の記章を着けていた事、また監督官の補佐官が本物かどうかは辺境伯の迎えが来れば直ぐにわかるからと執り成したため、私達は監督官の別邸に滞在する事になったのだ。まぁ、それでも厳重に警備されていて、それは護衛と言うよりも監視に近かったのだが。それでも、同行してくれる皆を危険な目に合わせずに済んで私はホッとしていた。
「全く、これでは軟禁ではありませんか!」
そう言って憤慨したのはユーニスだったが、実際、私達は別邸からの外出は認められなかった。それは護衛の四人も同じで、彼らもこの扱いには憤慨していた。そうは言っても、たった七人ではどうしようもない。下手に反発すれば牢に繋がれる可能性もあるからと、私は皆を宥めるしか出来なかった。辺境伯の元に行くまで我慢して欲しいとお願いすると、みんなは渋々ながらも従ってくれた。
辺境伯の迎えが街に着いたのは街に滞在してから四日目、屋敷を出発してからは十五日目だった。街の監督官が辺境伯へ使いを出したのは街に滞在して二日目で、早馬でも辺境伯の屋敷には丸一日はかかり、逆算すると一日でここまで辿り着いた計算になる。いくらなんでも早すぎるのではないかと、こちらが疑ったくらいだ。
「セネット侯爵令嬢が王都を発たれたと王家より連絡がありまして。その為辺境伯が我々を遣わしたのでございます。本来でしたら我が主がお迎えに上がらねばならぬところですが、あいにく外せぬ所用がございまして…」
迎えの護衛団の代表は、四十代くらいの騎士だった。実際に戦場に出ていたのだろう、顔にも痛々しい傷跡が残っていた。実直で真面目そうな人柄に、私は辺境伯の人となりと心遣いを感じた。少なくとも拒否されているわけではなさそうだ。
「いいえ、お心遣いありがとうございます。こちらも不作法な訪問ですので、かえって恐縮です」
実際、私の輿入れ自体が非常識の連続だっただけに、私はかえって申し訳ない気持ちになった。今までは無事に辿り着けるかどうかばかりを気にしていたが、こうして辺境伯の護衛団に迎えられると、自分の訪問の在り方が非常識だという事を思い出してしまった。単身での出立は王命ではあるけれど、これでは辺境伯様にもいい印象を与えないだろう。これまでも不安を感じてはいたが、一つの問題がクリアされた事で、私はもう一つの問題と向き合うことになってしまったのだ。
結局その日は時間的に遅いからという事で、出発は翌日になった。順調にいけば三日で辺境伯の屋敷に着くという。護衛の四人はここで引き返す事も可能だったが、彼らは最後までお供しますと言ってくれたため、そのまま一緒に辺境伯の屋敷を目指す事になった。短い付き合いではあるけれど、彼らは私を心配してくれるようになっていたのだ。これも多分、私がクロフとグレイディの傷を癒した事が大きいだろう。それほどに治癒魔法は、国民の間では貴重で珍しいものだったのだ。
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