第12話 襲撃者の正体

 今日宿泊する予定の宿に着いたのは、お昼を過ぎた頃だった。ここまでくると街と街の間が離れている。急ぎの旅でもなく、私がいるのもあって安全を第一にしているため、街に着く時間はお昼過ぎが多かった。


 街に着くとマーローとコーエンは、連れてきた一人を引きずる様にして町の自警団に向かった。私達を襲撃した者達の事を通報して、回収してもらうためだ。いくら襲撃した者たちとは言え、あのまま放っておいては夜に野犬や魔獣に襲われる可能性もある。仲間が助けに来ているなら仕方ないけれど、放っておいて殺されるのはさすがに気の毒だし、背後関係を調べる必要もある。


 二人を送り出した私達は、宿でようやく一息ついた。さすがに襲撃されたのはショックだったし、ユーニスやビリーも護衛達も、相当神経をすり減らしたと思う。さすがに精神的な疲れは癒しの魔法では治しようがないので、今日は早めに休んでもらった方がいいだろう。


「アレクシア様、大丈夫でしたか?」

「ええ、ありがとう。みんなのお陰で助かったわ」


 ユーニスが出してくれたお茶を飲みながら、私はホッと一息ついた。ここまで来ると、街一番の宿とは言っても、王都の周辺と比べると素朴でシンプルだ。警護するのが大変ですと護衛の方々が言っていたけれど、実際他の客との距離も近いし、セキュリティも甘い。実際に襲撃があっただけに、私は自分の身が思っている以上に危険だと思い知らされたから、これからは宿にいる時も警戒を怠る事は出来ないだろう。


「襲ってきた者達が、ただの盗賊ならいいのですが…」

「そうね…」


 ビリーの指摘に私も同感だった。彼らがただの盗賊で、たまたま通りがかった私たちを襲ったのならいい。

 困るのは、彼らが誰かから依頼を受けて襲った場合だ。相手が誰であれ依頼を受けての場合、失敗してもまた襲ってくる可能性があるし、今度はより一層確実に狙ってくるだろう。この場合はもう、辺境伯の屋敷に着くまで一瞬も油断出来ないのだ。こちらは人数が少ないだけに、次に襲われた場合、逃げ切れるか自信がなかった。





 夕食前になって、ようやくマーローとコーエンが、自警団の隊長を伴って戻ってきた。あの後、マーローは街まで連れてきた男の事情聴取に立ち会い、コーエンは自警団と共に襲撃された場所に向かったという。幸いと言うべきか、木に縛り付けた男たちは獣に襲われる事なく無事に見つかり、自警団に回収された。その後、先に連れて帰った男達と一緒に事情聴取されたという。


 事情聴取の結果、彼らは過去に違法な事をして冒険者から追放された連中で、今は犯罪者ギルトから違法な依頼を受けて生計を立てていたという。自警団も前から彼らを追っていて、一度に六人も捕まえた事で随分と感謝されてしまった。


 彼らは隣町の犯罪者ギルドから、ここ数日の間にこの街道を通る貴族の馬車を襲えとの依頼があって、報酬がよかったために受けたのだという。誰との指定がなかったが、多くの貴族はそれなりに武装していて、襲う事が出来なかった。そこにちょうど私達が通りがかり、護衛が少ないために襲ったのだという。

 依頼主は今のところわからず、自警団によると犯罪ギルドに依頼するのは基本的に匿名で、依頼者に辿り着くのは容易ではないそうだ。隣町の自警団と共に犯罪ギルドに乗り込む予定だと言われたが、旅の途中の私達がその結果を知るのは難しいように思えた。


「残念ながら依頼者はわからないままです。申し訳ございません」

「ううん、マーローが謝る必要はないわ。でも、依頼されて襲ってきたのが分かっただけでもいいわ。どう対処すべきか、これで方向性が決まるもの」

「確かにそうですが…」


 マーローが苦々しい思いを隠そうとしなかったのは、これからの旅が危険なものになると思ったからだろう。実際、狙われていると分かったからには、寝ている間も警戒を怠れない。それは護衛するのが大変になるのと同意語だった。


「辺境伯様のお屋敷には、あと何日かかるかしら?」

「そうですね…今のスピードでしたら四日、急げば…二日で行けない事はありませんが…」

「領主様の元に向かわれるのでしたら、連絡して迎えに来て頂いては?何でしたら我々が辺境伯様の元に早馬をやりましょう」


 自警団の隊長にそう言われて、私達は顔を見合わせた。迎えに来て頂くなど全く考えていなかったからだ。


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