第11話 神の御業

「どこの手のものなのかしら?」


 護衛騎士とビリーが襲撃犯を倒し、ようやく馬車の外に出た私だったが、倒れている男たちを見たユーニスがそう呟いた。馬車の周りには男たちが六人倒れていて、護衛の騎士たちが意識のあるものから順に縛り上げていた。それなりに武装しているから、冒険者か盗賊だろうか…


「一人は証人として連れて行きますが、残りは木に縛り付けて、街に着いたら自警団に報告しましょう。これだけの人数では全員を連れて行くのも危険ですし」

「分かりました。そこはマーロー様の意見に従いますわ。私ではわからないので」

「ありがとうございます。こいつらを問い詰めたいところですが、近くに仲間がいる可能性もあります。早くこの場を離れた方がいいでしょう」

「ええ。仲間がやってきては対処できないかもしれませんし」


 マーローとコーエンが揃ってそう言うので、私は彼らの言う通りにした。彼らのいう事は的を得ていたし、私も彼らを頼らざるを得ないのだ。


「わかりました。仰る通りにしましょう。その前に…怪我をなさった方はいらっしゃいませんか?」


 直ぐに移動した方がいいのは理解したが、それ以上に気になったのは誰も怪我をしていないかという事だった。見たところ四人とも問題なさどうだが、もし怪我をしていたら状態での馬での移動は辛いだろう。


「クロフとグレイディが負傷しましたが…かすり傷程度ですし、問題ありません」

「そうですか。私が治療しますから、お二人はこちらに」


 マーローがそう告げたため、私は傷の手当てを優先した。私のために怪我をさせてしまったのだ。申し訳ないし、治療くらいはさせて欲しかった。クロフもグレイディも大した事はないと言っていたが、よく見るとクロフは右腕に、グレイディは頬に傷を負っていた。傷は深くはなさそうだけど…利き腕と顔に怪我をしては何かと困るだろう。私は目の前にやってきた二人の傷口に手をかざすと、目を閉じて手のひらと傷に集中した。


「お…お嬢様…もしや…」

「治癒の魔法を…」

「まさか…聖女様だったとは…」


 すっかり傷が消えてしまった二人に、護衛騎士の四人が驚きの声を上げた。マーローが聖女だと言ったが、それは少し語弊がある。


 この国には、稀に治癒魔法を使える女性が生まれてくる事がある。多くは十歳までにはその能力が出現し、力がある娘たちは神殿に請われて聖女としての修業をし、ある一定の能力を持てば国が聖女として認め、その地位は高位貴族に匹敵するほどだ。

 力は個人差が大きくて、加齢とともに衰える者もいれば、死ぬまで持ち続ける者もいる。力が衰えても聖女と認められた者は年金が出るし、聖女と認められる事自体が大変名誉な事だ。だから能力を失っても貴族や裕福な商家からの縁談が殺到するため、生活に困る事はない。

 仮に聖女となれなくても、治癒魔法が使えるだけでも尊敬される。治癒魔法は神の御業とも言われて信仰に近いから、使えるだけでもその影響力は大きかった。


「私は聖女ではありませんよ」

「でも、そのお力は…」

「力としては小さいものですわ。それに使えるようになったのは婚約者になってから。だから私は聖女としての修業をしていませんし、国からも認められていないのです」

「それは…でも…」

「大きな傷や病が治せる力はありませんの。多分、修行をしても聖女にはれなかったと思いますわ」

「いえ…お使いになれるというだけでも凄いです…」

「そう?でも、あまり人に知られたくはないの。エリオット様にもそう言われていたし。だから…内密にね」

「は、はい。勿論です」


 実はそうではないのだけれど、あまり聖女の力を過信されても困るため、私はそう告げるに留まった。ユーニスやビリーは知っていたけれど、護衛達は知らなかったみたいで、みんな困惑しているようだった。まぁ、聖女は基本的に神殿に住んでいるからお目にかかる事は少ないし、その技を目にするのはもっと稀だから、驚くのも仕方なかった。

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