第3話 家族からの罵声と嘲笑
「全く、エリオット様から愛想を尽かされるなんて…」
「やっぱりお前はダメな子ね…」
「お姉さまみたいな可愛げのない女に王子妃が務まるわけないじゃない」
婚約破棄された私を待っていたのは、両親からの罵声と妹からの嘲笑だった。まぁ、想定内だからどうでもいいのだけれど。それにしても、姉の婚約者を奪った恥さらしな妹と、それを擁護する両親の残念さにため息しか出ない…婚約者がいるのに別の相手と親密になるなんて、かなり恥ずかしい事なのに何と思わないなんて…
あの時は陛下がいらっしゃる前に退出したけど、その後どうなったのかは気がかりだった。陛下のご命令で婚約したのに、それを勝手に反故にしたエリオット様を、陛下はともかくあの厳しい王妃様が許すとも思えなかった。それは新しい婚約についてもで、勝手にそんな事を決めたエリオット様にお咎めなしとは思えなかった。
それに、無事婚約破棄されたのかしら…
「とにかく、陛下からもヘーゼルダイン辺境伯の元へ嫁ぐようにとのご命令だ」
「陛下から?」
それはちょっと…いや、かなり意外だった。陛下や王妃様はいつもエリオット様よりも私の味方だったからだ。それもエリオット様は気に入らなかったみたいだけど、陛下はともかく王妃様まで了承されるとは思わなかった。それなりの時間をかけて国王ご夫妻とは信頼関係を築いていたと思っていたから、辺境伯への輿入れはないと思っていたけれど…どうやらそれは私の独りよがりだったらしい…
「エリオット様からは、準備が出来次第すぐに出発するようにとのご命令だ」
「…そうですか」
「何と言ってもお前は殿下から愛想を尽かされた我が家の恥さらしだからな。必要な荷物は追々送ってやるから、早々に出立するように」
「…わかりました」
これはさっさと厄介払いしたいのだと察した私は、早急にこの家を出る事にした。本当はお友達や仲良くしてくれたみんなに挨拶をしたかったけど、それが許される状況にはないらしい。仕方ない、向こうについてから手紙を出すしかなさそうだ。お礼や別れの挨拶もしないのはマナーに反するけれど、王家からの命令とあらば仕方ないだろう。
「ふふっ、お姉様みたいに勉強ばっかりしているだけじゃダメなのよ。女は見た目と性格も大事なのよ。私みたいにね」
両親の元を辞した私のところにわざわざメイベルがやってきた。確かにメイベルは美人で、男性には人気だった。赤みのかかった金の髪に、零れ落ちそうなほど大きな黄色がかった緑色の瞳は、セネット家特有の銀髪と紫瞳の私とは姉妹と思えないほど色が違う。庇護欲をそそる愛らしい顔立ちで、この見た目のせいで大抵の事は許してもらえるのだが…そのせいでこの子は勉強もマナーもさっぱり出来ない。勉強嫌いで家庭教師を追い返したり、仮病でサボったりとやりたい放題で、お祖母様が生きていらした頃はよく叱られていたっけ。
「そう、でも王妃様は大変厳しい方よ。王子妃教育、頑張ってね」
「ご心配なく。王子妃に必要なのはみんなから愛される事よ。私のように美少女で可愛くて愛嬌があればそれで十分よ。難しい事は臣下たちの仕事ですもの」
「そう」
多分、無理なんじゃないかなぁ…いや無理だろうとは思うが、言い返すと際限なく絡んでくるので反論はやめた。いずれ身をもって知る事になるのだ。今まで散々私を馬鹿にしてきた相手に、親切丁寧に教えてやる必要はないだろう。慌てふためく様が見れないのは残念だけど。
「わたしたちの結婚式には、是非とも辺境伯様とお姉さまも出てくださいね」
「そうね」
「辺境伯様って昔はお美しかったけど、顔の怪我が原因で大層恐ろしい顔に変わってしまわれたそうよ。お姉さま、お可哀想に…でも、一応王族だし、面目は保てるわね。婚約破棄された令嬢など、どこかの後妻かうんと年の離れた難ありの方しか貰い手がありませんもの」
「そうね」
「エリオット様もお優しいわね。お姉様にちゃんと縁談をご用意してくれて」
「そうね」
「ふふっ。お姉様ったら、悔しくてそうねしか言えないのね。でも安心して。エリオット様は私が幸せにするから。ああ、お母様に新しいドレスをお願いしなきゃ!」
勝ち誇った笑みを浮かべたメイベルはそう言うと、さっさと去っていった。言いたい事が言えて満足したのだろう。あの妹は自分が一番でマウントするのが生きがいみたいなものだから。そんな事をして、痛い目にあわなきゃいいけど…とは思うが、もう知った事ではなかった。
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