第23話 テレタイプ端末

「ここはなるべく独立させて,こっちに経路をつないだほうが魔力効率が上がるでしょ?」

「そうっすか?試してみるっす……今度はこっちの魔力が薄い気がするっす」

「それはこっちから供給すれば……」


イリスとゾルデが羊皮紙に描かれた魔法陣に手を加えながら試行錯誤している.

(俺の出る幕はなさそうだな……)


「これで実用上問題ない魔力消費量になるはず」

「完成したっす」


しばらく待っていると出来上がった魔法陣と例の変な模様が浮かび上がる置物を持ってくる.置物の表面には今は何も表示されていない.裏面ににたくさん並んでいたボタンも無くなっている.


「どうやって文字を入力するんだ?」

「これを使うようにしたっす」

もう見慣れた木製の箱.通信機だ.


「数字を2つ受け取るたびに,一文字表示されるっす」


2つある片方の通信機でモールス信号の要領で数字を送ると,置物の表面に対応した文字が表示される.50文字くらい表示できるようだ.


「この魔方陣,通信機の交換機に使われてる魔法陣とそっくりだな」

「そのとおりっす,だからすぐ完成したっす」


仕組みは交換機の魔法陣とほとんど同じで,2桁の数字で通信機を切り替える代わりに表示する文字を切り替えるようになっている.ここまでは同じだが,複数の文字を表示するためにそれまでに入力された文字をフリップ・フロップで作ったメモリーに保持するようになっている.


(決まった動作しかしないけど,ここまでくるとほとんどコンピューターだな)


「表示された文字は次に通信を始めるまで表示されるのか」

「次の通信が始まると消えちゃうっす」

「そのあたりは,将来の改善点だな.過去のメッセージが見れたら便利そうだ」


一から作ればもっと文字を入力しやすくできそうだが交換機の魔法陣を流用できたのはよかった.


実物は見たことが無いが,携帯電話やインターネットが普及するより少し前,電話から携帯端末にメッセージを送れるポケベルという物があったらしい.初期のものは数字しか送れなかったが,数字の組み合わせで文字を送れるようになって一気に普及した.携帯電話でメールが送れるようになったら一気に衰退したらしいけど.


これは,そのポケベルみたいに使えそうだ.いまのところポケットに入れるのは無理そうだけど.


「これすごい.欲しいかも」

いままでの通信機や計算機にはあまり興味を示さなかったリサが食いついた.

「何に使うんだ?」

「仲間に伝言を残すのに便利そう.冒険者ギルド経由で伝言を伝えるのは料金もかかるし……伝言をあまり確認しない人もいるから」

街に滞在している間はギルドの窓口で伝言を頼めるらしいが,自分宛ての伝言が無いか毎回確認するのが手間らしい.


「これも通信機と一緒に売れそうだし,アノスに相談した方が良くないか?」

「そうね.今ならお父様もお母様もいるはず.リサも来る?」

「わたしはここで留守番してるわ.イリスの家とはいっても領主様に会うのは緊張で疲れるし」


リサを残して,俺とイリス,ゾルデの3人で領主の屋敷に行に向かう.

部屋に通されると高級そうな机の席にイリスの父親のアノスが座り,いつもと同じように母のエレクトラが後ろに控えている.


説明はイリスに任せる.


「これは売れるな.というより,今からでも通信機には全部これを付けるべきだな」

「なら最初から一体型にして作った方が良いかも.魔石も一つにまとめれば費用も安くなるし」

「たぶん一日待ってもらえればできるっす」


「あと,送る前に内容を確認できると良いな.そうすれば間違いも減らせるだろう.通信相手の番号も確認できるとなお良いな」

「それは使いやすそうだけど,魔法陣の変更にちょっと時間がかからない?」

「確かに,少し時間が欲しいっす」

「なるほど.改良を待ちたいところだが,とにかく早く売って欲しいという予約でいっぱいなのだ.改良に時間をかけるより今のものを多く作った方が良いだろう」


「売るのではなく,貸し出すのはどうでしょうか?」

「貸し出す?」

「はい.一定期間貸し出して契約更新時に改良品に交換することにすれば,何度も買い直さずにすみますし,早くほしいという人には今の通信機を貸し出せば良いかと」


「なるほど.それなら今後の改良のことを気にせず,出来ているものから貸し出せば良さそうだな」

「購入するとなると大きな商会や貴族じゃないと難しいけど,貸し出すなら,料金次第で試しに使ってみたいという人は増えるんじゃない?」

「そうだな.個人で活動している商人や懐に余裕がある冒険者なら使えるくらいの料金としよう」


「故意に壊した場合や,紛失した場合の違約金を決めておけば,興味本位で分解されたり,国外に持ち出されることも防げそうだ」


「あなた.貸し出すならシュターツ以外にも支店を置いたほうがいいんじゃないかしら?定期的にこの街まで来るのは大変でしょう?」

それまで黙っていた聞いていたエレクトラの提案.

「確かにそうだな.ただ人員や店舗をどうにかしないといけないし,すぐには無理だ」

「それは,向こうで用意してもらいましょう.ちょうど,これをどうしても王都で取り扱いたいという話がきています」


「話を持ってきたのは信頼できる商会か?」

「商会でも商人でもないけど,信頼はできる取引相手よ」

「商会じゃない……なるほど俺じゃなくてエレクトラに話が来ているということか.そもそも断る選択肢はなさそうだな」


「だいたい方針は決まったな.俺はさっそく新しい契約書の作成と,取引先へ連絡をする.王都の拠点の件はエレクトラに任せる」

「はい」


「イリスたちは可能な限り通信機をたくさん作ってくれ.できればさきほど見せてもらった文字が表示できるものをだ」

「わかったわ」

「了解っす」

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