第8話 古代魔法の魔石を手に入れる

遺跡は昨日俺達が入ってきた街の入口とは反対側,街の裏手にある山の中にあった.


山の斜面にぽっかりと穴があいている.

洞窟のようだが内部は人工的に加工された岩でできていた.


あまり危険は無いらしいが,念のため装備を確認する.


リサから緊急用の魔道具を渡された.

居場所を知らせるビーコンのような用途の魔道具と,使い捨てのライトだった.


ライトは,叩きつけるなど衝撃を与えると,一日近い時間明るく光り続けるらしい.

便利そうだし,いくつか欲しいが,魔道具が高価だという話を思い出す.


「もしかしなくても高価なものですか?」


「緊急時に使うのを躊躇されると困るから,値段は秘密」

緊急時に使うのであれば,護衛の範疇なのでお金を請求したりはしないと説明される.



「それより,なんで私に対してだけ他人行儀な口調なの?イリスとは普通に話してるのに」


「いえ,最初に会ったときにリサさんのこと年上かなと思ったのでそのままでした.深い意味はないです」


「なら,今後は私もタメ口でおねがい」


それを聞いたイリスがなぜか不満げな顔をしていた.


「それって,リサは年上でわたしは年下だと思ってたってこと?」

当然のことを問われ,何を言いたいのかわからない.


「わたし,リサよりお姉さんなんだら!」


……信じられずにリサに確認したら,本当だった.正確にはイリスの誕生日が数日早いだけで同い年らしい.


この国の年齢の概念が分からなくなった.

もしかすると課金で生年月日を再設定できるのかもしれない.


「いま失礼なこと考えてない?」




リサ,俺,イリスの順番で遺跡に入る.

イリスが光魔法で周囲を照らしているので,暗くても足元や周りははっきり見える.


少し進むと下に降りる階段が見えてきた.

同じように何回か階段を降りる.上の方の階層は探索済みで何も無いらしい.


「昔イリスと二人で探検して遊んだの覚えてる?」


「うん.そういえば,あの時もリサは冒険者になるんだって張り切ってた」


遺跡とは言っても,子供が遊び場にするような場所ならあまり心配しなくて良さそうだ.


「もらった地図によると,こっちね」


崩れた壁の向こうに別の通路がある.この壁のせいで最近まで見つかっていなかったのかも.


「これじゃない?」


リサが指差した上に目を向けると,何かを削り取ったあとがある.


「あそこに魔石があったのか」


横になにか文字のようなものが彫ってあるが,イリスも読めないと言っていた.


その下には壁に扉のような形の凹みがある.

形が彫ってあるだけで実際の扉ではないようだ.


どうみても扉のような図形の上に設置された人間は転移できない転移魔石.

変な組み合わせだ.


「奥に進みましょう」


リサが地図を見ながら先導する.



「うわ」


魔物が横道から飛び出してきた.

驚いて尻もちをつく.


「囲まれたわ」


最悪のタイミングで前後からも魔物が現れる.


「数が多い!私は前をどうにかする.イリスは後ろをお願い!」


二人が前後の魔物を抑える.


俺はと言うと.


壁から降りてきたネズミのような魔物に追い詰められていた.


「しっ,しっ……あっちに行ってくれ.こっち来くるなよ」


すぐ後ろにいたはずのイリスに助けを求めるが,魔物を追って少し後方に移動してしまっていた.


さっき魔物が飛び出してきた横道に逃げ込むが,行き止まりだった.


ネズミに追い詰められる.


ナイフで応戦しようとしながら,なにげなく壁に手をつくと,体が引き寄せられ吸い込まれるような感覚.

壁が真っ黒な面になっているのに気づく.


なにかの罠?


異変に気づいたイリスが横穴に入ってきたのが見えたが,視界が真っ暗になった.




広い空間に放り出された.


振り返ると壁に扉の形.上部には魔石が嵌っている.

触れても何も起きない.


「イリス!リサ!」

イリスとリサを呼んでみるが返事はない.


先程までいた区画は床や壁がゴツゴツとした岩だったが,きれいに磨かれなめらかな素材でできている.

それに壁や床自体が光っているのか,明かりなくても室内の様子が確認できた.


魔物の姿はなく,ひとまずほっとする.

今は安全そうだし,動かないほうが良いだろう.


罠でパーティーが分断されるというのはよくある事故だが,備えが無いとそれだけで全滅の危機だと説明された.

緊急用と言って渡された道具を確認する.

居場所を知らせる魔道具だというそれを説明されたとおりに発動する.


部屋を見回すが,そもそも出入り口のようなものが無い.閉じ込められた?

壁際には,石でできた台座がいくつか並んでいる.上になにか乗っているが,ほとんど風化して砂のようになっていた.



爆発音.


壁に空いた穴を見て身構えるが,中から現れたのはイリスとリサ.助かった.


「大丈夫だった?いきなりいなくなるから驚いたわ」

リサに怪我が無いか確認される.

急にいなくなった俺を探していたが,魔道具の発する魔力でこの部屋の場所が分かったらしい.



「驚いた.遺跡にこんな部屋があるなんて」

イリスが興味深そうに部屋の中を見て回っている.


「ここには魔石を加工する設備があったみたい.未加工の魔石と,加工済みの魔石がある」


風化していない設備や,加工途中の魔石が見つかればもう少しなにか分かりそうなんだけど,残念がっている.

上の階層よりだいぶ古い時代のものらしい.どうやら,この遺跡の設備を利用するために後の時代に上の遺跡がつくられたようだ.



「またいなくなったら今度は置いてくから気をつけてよね」


「そんなこと言って,イリスったらすごい形相で一直線に魔法で壁をぶち抜いてたじゃない」


「パーティーメンバーが死ぬのは気分が悪いんだから仕方ないでしょ」




遺跡の外に出ると,すでに日が沈んでいた.

いつのまにかイリスは魔石をいくつも抱えている.


町に帰って帰還を報告.

遺跡の調査依頼という形をとっていたらしく,少額だが報酬を受け取った.


銀貨を,俺とリサの二人で分ける.今日の夕食代くらいにはなるだろう.


「じゃあ,約束通りこれ貰ってく」


回収した魔石のうち2つを手に持つイリス.事前に交渉済みだったらしい.




いつのまに用意したのか,複雑な魔法陣が描かれた羊皮紙がテーブルに広げられている.


「せっかくだし動作確認」


イリスが魔石を魔法陣に乗せて魔力を込める.


しばらく魔力を込めると,空中に直径10cmほどの黒い穴のようなものが2つ現れる.が,1秒ほどで消える.


「これが転移魔法なのね.思った以上に消費魔力が多いし起動するだけで限界か」


起動するには魔道士がたくさん必要だと言ってたのはなんだったのか.

担当者はぎょっとした顔で見ている.



イリスが羊皮紙に何か薬品のようなものを振り返ると魔法陣が消える.

「これ,ありがとう」

あっけにとられる担当者に使った羊皮紙を返して,建物をあとにする.


「相変わらず,イリスの魔力量はおかしいよ」

リサがあきれたように言う.


「あと,魔法陣をその場で描いて使い捨てるのやめた方がいいよ.インクだって高価だし」

通常は魔法陣は何度も使うし,代々伝わるものを大事にしている家もあるほどだという.

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