変化
近くの薬局やデパートに行ってあらゆる化粧品を見比べる。まずはアイブロウと剃刀、アイテープを探す。ファンデーションとかグロスは気になるものがあればカゴに入れた。
『まずは眉毛の形を整えてみましょ! 失敗しない眉毛の整え方、リンクを貼っておくので見てみてください!』
『瞼を薄くして二重にしてみてはいかがですか? 瞼薄くすれば二重にしやすくなりますよ!』
貼ってくれていたリンクを確認してみた。左右対称にするためにまずは適当に剃り始めるのではなく、形をペンで決めてからそれに沿って剃るといいらしい。スクロールしてみるとおすすめのアイブロウが掲載されていた。今日はそれを探しているのだ。
インフルエンサーの方を見ても眉毛の形が凄く綺麗で絵に描いた眉毛のようだった。
お目当ての物を見つけて家に帰り、送ってもらったリンクの通りに線を引いて剃ってみる。慎重に、息を止めながら失敗しないように剃っていく。両方の眉毛を剃り終えてから鏡を見た。初めてにしては上出来だと思う。あとは眉頭をアイブロウで塗ってムラのないように仕上げた。完璧だ。眉毛だけ見たら可愛いと思う。
あとは瞼を薄くする運動。これを運動と言うのかは定かではないが、毎日暇な時に意識してこの動きを繰り返すらしい。すぐには効果が出ないと思われるので、同時並行でダイエットもすることにした。
ずっと家を出ない生活をしていたので太ももや下っ腹に脂肪がつきまくっている。摘んでみるだけでそのみすぼらしさに顔が歪む。SNSを見てもこんなに太ももが名前の通り、太ももといった形をしている人を見た事がない。痩せられるのだろうか。
実際に太もも痩せを経験している人たちの運動法を動画で見ながら試す事にした。高校を卒業してからというもの、運動と言えるような運動をしていないので5分しただけでおでこに汗が浮かんだ。腰も太ももも限界に近づき床に突っ伏した。
「駄目だ……。こんなの続くわけない」
死体のように横たわっていると、スマホが通知音を鳴らす。画面には公式アカウントからの通知が来ていた。急いで開いてみると新CMの情報だった。
『この度RI-Tu_Mの新CMが2月から14日間、特別に放送される事になりました! どのチャンネルでどの時間に流れるのかは僕達も分かりません!笑 ぜひ僕たちを見つけてくださいね!! ファンの皆さんには特別に公開します!』
メッセージの下には動画のリンクが貼られており、タップすると動画が始まった。
「バレンタインに贈る、君だけのチョコレート」
そう言いながら河田光友がチョコが入っているであろう箱をこちらに近づける。「俺はちょっと苦めのチョコが好き」と神崎龍輝。「僕は結構甘党だからミルクチョコ!」と板倉みのる。「サクサクのチョコも美味しくない?」と沢田辰月。それぞれが言い終わってから手に持っていたチョコを口に入れる。美味しそうに食べるメンバーを見て河田光友が「僕も食べるー!」と言って机に置かれてあったチョコを頬張った。そしてラスト、メンバー全員で「大切な人に届けよう! ハッピーバレンタイン!」と言って動画が終わった。
この動画で紹介してあるチョコレートメーカーとRI-Tu_Mが期間限定のコラボをしているようで14日までメンバーからのメッセージ付きで販売しているようだ。しかも運が良ければRI-Tu_Mの握手会に参加できるプレミアムカードが着いているらしい。通常は先日発売された新曲「one Dreamer」に入っている握手会券で参加するのだが、これを引き当てる事が出来れば、好きなメンバーと5分間だが会話が楽しめるそうだ。
「明日から取扱店大変な事になるのかな」
その想像は予想通りで、朝近くのスーパーに行くとそのチョコ目当てのファンが開店前というのに並んで待っていたのだ。まあ勿論、私もその1人なのだが。
お店側としてはこうなる事が想定内だったのだろう。整理券を配り、一人5つまでとして開店と同時にお客さんを中に入れた。私は14人目という事もあって何とか買う事が出来たのだがその頃にはダンボールの底が見えていたので、もう10人と買えないだろう。
帰り道、あの行列に並んでいた人たちの顔を思い出す。皆輪郭がくっきりとしていて目はぱっちり。スタイルも良かった。私なんかがあの列に並んでいたことが恥ずかしい。他の人から見たら本当に豚以下に見えたかもしれない。もしかしたら「この豚もファンかよ」なんて思われたかな。1度ネガティブな想像をしてしまうとどんどん底に叩きつけられていく。
「やっぱり痩せよう! 醜いぞ! 私」
家に帰ってから、チョコを開けることもなく運動を始めた。今日せめて1時間頑張れたら1箱開ける。明日は1時間半頑張れたらまた1箱開ける。運動がてら少し遠めのスーパーまで走ってチョコを買いに行く。
そう目標を立てて1週間、ダイエットを始めた日に1度計った体重から減っているだろうか。最初の頃は痩せると言うがそれからは減りにくいらしい。今日測って落ちていても絶対にダイエットを続けると誓う。そーっと体重に片足を乗せる。もう片足を乗せて目を閉じる。しばらくして目を開けると、1週間前より5キロも痩せた結果が目の前にあった。私は体重計からおりて飛び跳ねる。そういえばここの所家で使ってるスエットが異様にでかく感じていた。下っ腹はまだまだと言った所だが太ももは少し隙間が出来ている。大きな成果が出た事でもっと頑張ろうと思えた。未だに5つのチョコからプレミアムカードは出てきていないけれど、握手会には参加出来る。握手会は2ヶ月後。それまでにあと10キロは頑張ろう。身長は高い方なので体重を落とせばめちゃくちゃスタイル良く見えるはず。
輪郭も少しシャープになり、瞼も薄くなっているので初めてアイテープを使って二重に挑戦する。鏡を見ながらやってみるも一回目はテープがぐにゃぐにゃになり失敗。何度か試してみてようやく成功したがヒュン現象により失敗。
「やっぱりのりの方がいいのかな。腫れたりしたら怖いんだよなぁ」
もう一度挑戦してみる。その一部始終を動画で撮ってSNSにあげた。『アイテープがなかなか成功しません。コツとかあるのでしょうか使っている方、教えて頂きたいです』1週間ぶりの投稿だった。この一週間ほどでフォロワーは100人を超えていた。100人が私を助けてくれると信じている。これまでもそうだったのだから。
マラソンを終えて帰ってくるとたくさんの返信が来ていた。
『まりなさんの瞼的にこちらのアイテープの方がいいんじゃないですかね? 100円で買えます! 私もまりなさんと同じテープを元々使っててなかなか上手くいかなかったのでこっちに変えたのですが、めちゃくちゃ使いやすかったです!』
『そのまま貼るのではなく伸ばしてみてはどうでしょう! 私も伸ばして使ってます!』
ここの人はどうしてここまで優しいのだろうか。きっと私と同じように努力してきた人たちなんだ。
全ての返信を見ていると1つ関係はないがとても嬉しい返信があった。
『凄く痩せられました?? 初めてまりなさんの目元見た時より全体的にスッキリしているような感じがします! ダイエット頑張ってください!! 私も頑張ります笑』
自然と口角が上がる。こんなに嬉しい言葉があるだろうか。努力を見てくれている人がいるというだけで感動する。しかもこの返信には15人の人がいいねをつけていた。共感してくれた人が他にもいるのだということにも涙が出そうだった。また頑張れる。そう感じた。
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