探究心
とにかく彼の事を知りたい。
彼にハマって1週間。私はずっとスマホから離れなかった。これまで発売したシングルやアルバム、ライブDVD、コンサートグッズをフリマアプリで探した。最新のシングルやアルバムはDVDショップで購入し、デビューすぐのものは中古屋を探しまくった。RI-Tu_Mが出た雑誌や番組も拾えるところからとにかく集め見まくった。
その行為はこれまで感じたことがないくらい、私を満たしてくれたのだ。
この1週間、あのアプリは開いていない。これまではことある事に通知が来るようにしていたが、完全に通知も切った。それと入れ違うようにSNSの通知をオンにした。公式のアカウントはもちろん、RI-Tu_Mが出る番組をこと細かに知らせてくれるアカウント、遭遇情報アカウントも通知をオンにした。
そんな事をしていく度に自然と口角が上がる。これまでは親のクレジットカードから課金をしていたので外に出る必要がなかった。しかし、RI-Tu_Mのものを集めるために外に出かけるようになり、自分の身なりに違和感を感じ始めた。SNSを見てもどれもこれも可愛い子ばかり。それは加工なんかじゃない、自然な可愛さで透明感があった。それに比べて私はどうだ。無造作に伸びた髪に一重まぶた、手入れのされていない肌。写真を撮って見てもなんかくすむ。撮った写真に加工をしてみても可愛さなんかに程遠い。その顔をもう一度見て、変わる気力すらも失ってしまいそうだ。
「いや、河田光友を推すなら、誰よりも可愛い推しになってやる!」
鏡に写る私をキッと睨む。
美容にはかなり疎い自覚がある。ここはSNSの神たちを頼ってみよう。少しでも返信が来ればいいのだが。
SNSを開き、先程撮った写真のおでこから目元だけにカットし投稿する。「光友くんの可愛いファンになりたいんです! どなたかこの顔の部分を垢抜ける方法を教えてください!」というメッセージも載せて。
返信を待つ間、RI-Tu_Mのファーストコンサートの映像を見る。最初に映った映像はファンが客席に座り、彼らの登場をいまかいまかと待っている様子だった。隣の席の子とうちわを見せあったりペンライトを軽く振ったり。
好きな人ができると人は可愛くなるらしい。それはテレビの中の人でも同じなのだろうと彼女たちを見ていて感じた。
会場内の電気が一斉に消えると、辺りがザワザワし始め自然とペンライトが光り出す。彼女たちが見つめる先には幕の降りたステージがあった。幕の裏から煌々とした光が放たれ、そこにいるであろう5人のシルエットが映し出された。歓声は大きくなる。センターに立っているメンバーがマイクを口元に持っていく。
「2017年6月25日に僕たち5人は結成されました。それから今日までの日々、僕たちはファンの皆に会うために、がむしゃらに努力を続けてきました。そして今日! この日を迎えることが出来ました! メンバーの頭文字を取って付けて頂いた僕たちの名前。皆で呼んでください!」
それはリーダーである板倉みのるの声だった。その合図と同時にデビュー曲のイントロが流れ始める。
「せーの!」
『RI-TU_M!』
幕が上がり始め、会場内に優しい青色の光が包み込んだ。幕が上がり終えると同時にセンターに立っていた板倉みのるが歌い出す。その声を聞いてファンの歓声も最骨頂へと達する。続いてのパートを沢田辰月と河田光友が歌う。またしてもファンの歓声が上がる。2人の間から宇野大晴が愛嬌いっぱいの笑顔で自分のパートを歌った。そしてサビに入る。神崎龍輝がサビの中でも大事であろう歌詞を1人で堂々と歌う。間間に映るファンの表情は幸せ以上の何者でもなかった。
2曲3曲と進んでいくにつれ、私は前のめりになりライブを観戦した。MCに入るとファーストコンサートへの想いをメンバーそれぞれが述べた。宇野大晴は感極まり泣き出した場面では板倉みのるが背中を撫でながら「嬉しいよな」とお兄さんのように接する。河田光友は「まだ早いって」と笑っている。
MCを見る限り、本当にこのメンバーは仲がいいのだろうと伝わってくる。誰かが喋り出せばその人の顔を見て頷いて、普通の会話だけでなく笑える要素も入れながら会話する。その光景が2次元にはないものだった。2次元ではテンポ感が生まれない。読む人でペースなんて変わってくるし、その会話を1文字1句読み返せてしまう。それが2次元のいい所なのだが。
MCが終わり後半へと入っていく。後半ではしんみりとした歌もありつつ涙を誘われる。
ラストの曲となり、板倉みのるがステージの真ん中で真剣な表情になりマイクを両手で持ち直した。
「次で最後になります。皆で一緒に歌いましょう!」
また会場が暗くなり歌い出したメンバー、1人ずつにライトが浴びせられた。
河田光友が声を詰まらせる。口元を抑えながら涙を見せないように顔を隠した。その姿にまりなも自然と涙を零した。板倉みのると沢田辰月も涙を流す。神崎龍輝は目頭を潤ませながら涙を流さないように必死に堪えていた。
その後は流れるようにアンコールが起き、それに応えてもう1曲歌い上げる。客席に手を振りながら会場から去っていくメンバーたちの後ろ姿で映像は終了した。
心臓がドクドクと脈打つ。胸元を手で抑え真っ暗になった画面を見つめる。つま先の辺りに振動を感じそちらを見る。スマホが通知を知らせているようだった。
画面には公式アカウントの投稿と返信が表示されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます