最終話
子どもの頃、よく遊んでくれた少女がいた。
友達はあまりいなかったがその子だけがいつも一緒に遊んでくれて、公園に行けばこっちが来るのを先に待ってくれていた。
名前は
「それが、君の本当の名前だろ?」
「……。」
義田亜香里、過去が示した根幹の真実はやはりあの頃の記憶だった。うろ覚えの少女、初めて出来た友達の存在、それが彼女だ。
「無事で良かった、怪我は無い?」
「…ええ、アナタも生きててよかった。
生きているからこそ、全てを私がこの手で終わらせる事が出来る。」
手元に握っている出刃の先端が、こちらへ向いている。表情を見ても冗談では無さそうだ
「ちょっ、何やってんだよ!?
そんなもん向けたら危ないだろっ!」
「危ないのはお前だ。」
刃物から距離を取ると、背後から拳銃を突き付けられる。振り向けば大勢の警官を従えた徳元が眼光鋭く睨みをきかせていた。
「…徳元さんまで、一体どうしたんだよ!?」
「まだ思い出していないのか。
私たちは初めからお前が記憶を取り戻すのを待っていたんだ、世界を閉じる為にな」
「……は?」
「世界の根源はアナタ自身、私たちはそれを封印する鍵に過ぎない。全ての元凶はアナタなのよ、全部アナタが招いた惨劇..。」
「オレが……元凶...?」
凄まじい速さで記憶が巡る、今までの出来事全ての思い出が還り戻るように哀れな男の感覚に〝気付き〟を与える。
「………ふぅ。」
「..戻ってきたわね」
「本当に気付いていなかったのか、鈍感め」
男の瞳は、あの頃の冷めた眼に戻っていた。
「思い出したか、このクズめ!
あれだけの人を殺しておいてよくのうのうと生きていられるな、恥を知れっ‼︎」
「口を慎めお前ら!
..と、言いたいところだが気持ちは同じだ。」
「人って簡単だよな、少し言ったら直ぐにその通りにしちゃうんだから」
黒い影をただ伸ばすように、人を覆っては喰らって来た。友も先輩も親でさえも。
「やっぱりアナタだったのね、ずっと探してた。私をこんな風にした人間をっ‼︎」
「どんなでもいいよ、どうせ皆一緒だし」
「お前はただの快楽主義者だ、心など無い。
だが私には心がある、だからこそ殺める..!」
「殺せよ」
拳銃を向けても恐れらどころか受け入れる平然ぶり、己の命など何とも思っていない様子で無愛想なままでいる。
「もう飽きたわ、生きてくの。
ワクワクも何も感じなくなってきちゃった、寧ろカッ死後の世界〟てのに興味あるわ」
「貴様..!」
ヘラヘラとする健太に腹立て拳銃を構える、しかし引き金が引かれるよりも早く背後の怒りが頂点に達した。
「亜香里..!」
突き立てられた刃先は背中へ刺さり、腹にまで貫通している。
「..興味あるならさっさと行けばいいわ。
二度と顔見せないように地獄の底にでも眠って消えてしまいなさい..!!」
「……へへへ、楽しみだな..地獄か。」
何度も身体を刺した。息の根を止めても尚、それを誰も止める事は出来なかった。
「終わりだ、何もかも。」
「これで..これでぇっ...!!」
恍惚の表情は世界の扉を漸く閉めた喜びか、単純な快楽による心の解放か。
「..帰るぞお前たち。
何も無かった、全て過去のおとぎ話だ」
『帰らせねぇよ?』「……何」
フラフラとした千鳥足で声を震わせる。
包丁はもっていない、もう持つ必要はない
『てめぇらホント役立たずだな、まぁ鍵として役割果たしたから赦してやるわ。』
背中から伸びる影が、大きな腕となり拡がる
『邪魔だからここで消えろ、カス共が』
抵抗する間もなく黒い腕に薙ぎ払われ、血溜まりと化す。地面が赤黒く染まる、まるでいつか見た空のような色だ。
「あーあ、やっちまった。掃除めんどくせぇなぁ..仕方ねぇけど。それにしても随分呆気なく死んじまったなぁ、無理もねぇけど。流石にみんなコイツのせいにしちまったらな」
血を流す死体を蹴り上げ、つま先で転がす。
「お前が悪いんだぜ、大喜寺健太。
ヒント出しても気付かないしよ、色んなところに顔出してたのに。」
過去の記憶を隠れて度々覗いていた。何処で一体気付くのか、どんな選択をえらぶのか。
「ま、わかんねぇよな普通に」
顔を一瞬手で覆い隠すと、掌を離す頃には受付の女に姿を変えていた。
「さぁてと、挨拶廻りといこうかなー。」
軽い口調でそう言うと、女は血みどろの死骸群を置いて何処かへ去っていった。
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