第31話
子供の発想考えというものは大抵が理解出来ず難解なものだが、それらの全てに意味だかある。何かを学習し得る為のもの、おかしく難解で当たり前なのかもしれない。しかしそれが何か〝大きな目的〟を果たす為のものであるとしたら、発想がわかりやすく反映され周囲には簡単に伝わり過ぎてしまう。
「こら俊太くん! やめなさい!」
「へっへ〜! 楽しいな〜!」
近頃の俊太は荒れていた、壁に落書きをしたり人の食事を横取りしたり...ボールの用途を誰かに当てる道具だと認識している。
「うわぁぁ〜ん!!」
「大丈夫? こら俊太くん!
またゆなちゃんにイジワルしたのね!?」
「してないよ! 勝手に泣いただけだって!」
変わり果てた姿、以前であれば泣いている子にいの一番に駆け寄る優しい子であったのに
「なんでそんな事ばっかりするの!」
「……」 「..なに、どうしたの?」
看護師が怒鳴り声をあげると奇行をやめ、突然静かにこちらを睨みつける。
「なんでやってはいけないの?」
「そんなこと、ゆなちゃん泣いてるでしょ⁉︎
やられたら凄く嫌な事なんだよ?」
「だったらやめるんだ、つまんないの。」
冷めた声で呆れるように言い捨てた
「俊太くんは悲しくないの!?
お友達が物凄く傷ついて泣いてるんだよ!」
「えみこさん、アナタには聞いてないよ」
「え?」 「ゆなちゃん。」
叫び叱る看護師を無視し、それに抱きつく少女に近付き問いかける。
「…わたし?」
「ゆなちゃんもやりたい事あるよね、誰かにダメって言われちゃうだけでさ。」
「わたしの...やりたい事?」
その日からゆなはいつも大事に持っていたぬいぐるみの数々をバラバラに引き裂き始めた。ゆなを筆頭に次々と子どもたちが荒れ始めやがて施設にいるほぼ全員の子どもたちが従業員の言う事を聞かなくなった。
「みんな狂ったように変わっていってね。
みんな手に負えなかったのさ、それで起こったのがあの悲劇だよ。」
子どもたち数人が施設中に灯油を撒き散らし、火をつけた。放火した子どもたち達は燃え盛る炎を見てケラケラと笑っていた。
「もう麻痺してたんだろうねぇ、刺激を求め過ぎてさ。そのまま子どもたちがそこで何をしたと思う?」
女は息を整え改めて言う。
「飛び込んだのさ、火の中にね」
それでも尚笑っていた。熱さを見に浴びてもなお娯楽の中ではしゃいでいた。
「嘘だろ..?」
「私もそう思ったさ、だけど現実だったよ。
止めようにもやり方がわからなくってさ、何せ楽しそうだし相手は火だしで..」
当時の思いが弾けたのか大粒の涙を浮かべ啜り声をあげ始める、何か込み上げるものがあったのだろう。
「また助けられなかった..!!
あのときと同じだ、私はまた人を殺した..!」
自責の念は強く人を遠ざけた。
森の魔女となり、静かに生きるしかなかった
「…その場所、まだありますか?」
「..行って何する?
墓なんてないよ、あそこはもう何もない。」
「何も無いところから、真実を見つけ出すのが刑事というものだ。そこに真相がある」
「…アンタらも、言ってきかないタイプだね」
紙とペンを取り出して文字を殴り書き手渡す。
「一応の住所だ、殆ど残りカスだろうがね。
行って何でも調べるといい、確かに何かを得ようとするのはいいかもね。失うよりはずっといい、健闘を祈るよ。」
「ありがとうございますっ…‼︎」
「さっそく取り掛かろう、己上たちにも協力をあおぐ。先に車に乗っていてくれ。」
「はい!
…院長さん、本当にありがとう。」
「健太くん!」「はいっ!」
「...大きくなったね。」
優しく伝えたその顔は、とても暖かく安らぎのある表情だった。誰がこの顔を奪ったのか、それは紛れもない院長自身なのであるが。
「忘れられるなら忘れないもんだ、羨ましいね。記憶力が薄い奴ってのはさぁ..?」
思い出すたび辛くなる、ならば忘れるべきだ
「住所認識します?」
「難しいな、近くの住居を入れている。
表示されないほど形が残っていないのか?」
場所がわからない、権力行使の万能車でも特定出来ないとあらば目安で把握する他無い。
「他の警察の方々は大丈..」
窓から見える景色が変わる。道案内は任せろという事らしい、頼もしくも悍ましい。
「赤黒い景色、もしやこれが..⁉︎」
「ここで来たか。
徳元さん、降りてください!」
車は入り口に過ぎない。確信に迫る、もう一つの扉を探す、鍵は常に手元へ。
「道が一本になっている、なんだこれは?」
「この先にいけば、多分着くと思います。
行きましょう、時間も余りありません」
侵攻し過ぎた世界は徐々に未来を奪っていく。
こうして歩いているだけでも、少しずつ命が削られていくのがわかる。健太には何となくわかっていた、ここが世界の根幹なのだと。
『ゲコ、ゲコッ!』『ぶーんぶーん!!』
道をノケモノが駆け回る。今更彼らを思い出すつもりは無い。必要なのは根幹の記憶、全てはそこに眠っている。
「君はずっとこんなものを見てたのか、私ならおかしくなってしまいそうだぞ」
「これからもっと壊れますよ、きっと」
長い長い道路の道を進んでいくと前に見たものと似た廃墟のような建物に差し当たる。
「..着きましたかね?」「おそらくな。」
入り口は建物のそれであった、扉を設け鍵穴らしき隙間が見える。慣れた手つきでポケットからトリガーなり得る銀の棒を取り出す。
「権田の車の鍵か」「これが扉を開くんです」
入り口の穴に挿し込み、ぐるりと回す。
最後の扉が音を立てゆっくりと開いていく
「…行きましょう。」「....ああ。」
過去を思い出す、根幹に迫る
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