第20話

 昨日の帰り道、亜里香に色々と言いそびれた気がする。今までずっと感じていた事、過去の世界で何を見たのか。


 (今普通に隣いるけど、改めてはなぁ..)

本当は今日も休みの筈だった。しかし昨日の疲弊ぶりを見て急遽出勤する事にした。


「あの、さ..」


「うん? どうかしました?」


「あ、いや..別に。」「そうですか?」

慣れ親しみ過ぎたせいか随分と扱いがフランクになっている、こうなるから余り知り合いは増やしたくない。人による感覚だろうが彼の個人的な感覚として〝仲良し〟を忌み嫌う傾向にある。


(苦手なんだよなぁ、そういうの。)

言葉にすれば〝アットホーム〟というのだろうか、少しの間一緒にいただけで直ぐに周囲の連中を囲み『仲間』などと親しみを持つ。


(なんなんだろうなアレ。気持ち悪い)

その馴れ合い的エゴチズムに、物凄く寒気を感じるのだ。


(だから早く一人でやりたいんだけどな)

という感情と同時に偶々ではあるが余り馴れ合わない社風のオフィスに心地良さがある。健太が独立するのが遅れている理由の一つがこれだ、オマケに余り関心を持たれて無いので些細な理由で有休が取れる。便利なものだ


「集団行動って難しいよなぁ..」


「わかります、大変ですよね。気を遣うし」


「え? あぁ、そうだよね!」

思考が口に出てしまっていた。こうなれば自然と会話が始まってしまう、有難いがタイミングを果てしなく間違えてしまっている。


「そうなんだよ、気を遣うんだよね。

全然興味無い話に関心あるフリとかしてさ」


「困りますよね、興味無い話。

少し質問とかしたら更に詳しく展開されたりして、前もありました。二人組の人につかまって『仲良いですよね』って軽く言ってみたら『もうコイツとは家族みたいな関係でね』とか言われちゃって。」


「あーそれは面倒だね」


「ですよねぇ?

数年一緒に頂けて人の事を理解しきれる訳ありませんもん、家族を舐めるなって話です」


「ははは、言えてる言えてる。」

亜里香の以外な辛口発言に圧倒されるも強い好感を持っている。本当に良い人というのは悪口を言わない人ではなく

〝褒め言葉と同等の嫌な部分を言える人〟だ


「..なんだか、嬉しいです。」


「え?」


「こうして、思っている事を正直に言えるのって楽しいですね。前の場所では、余り言えなかったから」


「あ‥そうなんだ。」


「これも権田さんのお陰ですね、アナタと巡り会えて良かったです!」

昨日の笑顔と同じだ、安らぎを感じる顔。

これがおそらく彼女の本当の表情なのだろう


「お、オレも..!」


「大喜寺ー、客が来てるぞ。」


「は、きゃ客!?」「話があるんだそうだ」

言葉の途中で遮られた。いつもタイミングが悪すぎる、元々人とズレているのか?


「誰だよ...ったく突然なんだ?

お偉いさんからクビ宣告か? 上等だコラ!」

半ば喧嘩腰でロビーへ降りると、備え付けのソファに見知った顔が背を曲げて小さく座って待っていた。


「‥よぉ、忙しいところ悪いな」


「....徳元さん、もしかして用事ある人って」


「私だ、突然申し訳ない。お前に話がある」

社内の誰かと思っていたが外のしかも刑事であった。現在の事情を察してくれていたが、刑事の方が確実に忙しい筈だ。


「話って、何ですか」


「‥お前が以前、私に〝会った事がある〟と言っていたよな?」


「はい、言いましたが..」


「思い出したんだ、何処で会ったか」

署に帰り、改めて過去の資料を調べたところとある事件の記述があった。そのときの事件と捜査にて出会った人々との記憶を照らし合わせ、当時の健太の顔が浮かんだ。


「今から16年前、この街で事件が起きた。

街で次々と人や動物が不可解な死を遂げる、それは当時〝殺害〟としての形跡が濃厚とされていた。標的は見境無く、死に方もそれぞれでみんな異なっていた。」


「..それって今追ってる事件と」


「ああ、凄くよく似ている。」

そんな過去の凄惨な事件と自身が何の関係を持つのだろうか、いつもの如くマストのように何も覚えていない。


「君はその中の、捜査協力者の一人だった」


「オレが? でも16年前って..」


「当時八歳だ、街の人々に話を聞いて回っている私のところに〝犯人かも知れない人〟として自身の友人の名前を教えてくれた」


「友人...ですか。」

当時は友達が殆どおらず、基本的に一人で公園にいるか街を散策して遊んでいた。暇を持て余し目に付いた刑事に悪戯心で冗談を言ったのだろう、そう思った。


「その話を信じたんですか?」


「協力者だからな、少しでもの助力のつもりなのであればどんな話も耳を貸す。それが例え小さな子供の遊び心だったとしてもな」

話を聞けば当時の自身が言っていた友人とやらはどこか不審性があり違和感のある行動が目立つ、もしかすれば何かしているかもしれない可能性を感じるといった事を刑事に直接伝えたらしい。


「冗談にしては詳しくてな、どうも邪険に扱えなかった。口にしていた名前は確か孝史、榎ノ本 孝史という名だ。」


「たかふみ...!?」

はっきりと明確な過去と繋がった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る