第12話
某廃ビル、そこはかつて彼女が所属していた組織が働いていた城の一つ。
「一人死んだよ〜ヨシハル〜?
邪魔なヤツはみーんな消したげるからね〜。」
誰もいない、かつてオフィスと呼ばれていたその場所で最愛の男の顔を眺めていた。
「次は誰にする〜? 邪魔な人ダレ〜?
...あ、アイツにしよっか! あの刑事っ!」
一度病院で会った事がある。
無愛想で感情が薄い、堅物そのもの。
「アイツ勝手にヨシハルの身体持ってっちゃってさ〜、それから解剖されて〜....。」
女の表情が一変し憤怒を露わに叫びを上げる
「ムッカつくよね、あいつさぁっ!!
アタシの許可なく独り占めして、大事な大事なヨシハルのカラダなのにさぁっ!!」
本来ならば、傍に寝ている筈の彼の姿が今は病院に眠っている。このまま放っておけば順序で言えば、跡形も無く燃やされるだろう。
「でもあの会社を守れて良かった〜!
私たちの大事なお城だもんね?
もう奪われる事はないわ、これで安全♪」
尾野崎が権田に持ち掛けた取引は城の強奪、つまり企業の売却だ。大金を持ち掛けビルごと傘下に加わるか、もしくは譲れと言ってきた。権田は直前まで〝共にやりたい事業〟があると聞かされていた。しかし蓋を開けてみればこの具合、軽く断り誤魔化しの冗談として〝会社の代わりに車をやる〟と例の車をプレゼントとしたのだ。
「ちょっと打ち合わせだ〜とかいうから通してやればそんな事言うんだもん。放っておいたらいつしか乗っ取られてたもんね〜....。
まっ、死んだからいいけどね!」
目立つ人のものを突発的に欲しがる厄介者だったのは間違いないが、追い出す為に命を奪うとは余りにも極端だ。
「ね!
だから白く塗り替えて良かったでしょ〜!?
アイツの身体が潰れて血飛沫で車が赤く染まったとき、興奮したぁっ...‼︎」
頬を赤らめうっとりとした顔で余韻に浸る。
男は塗料、芸術を彩るアイテムに過ぎない
「でもびっくりしたぁ、まさかあの車人にあげちゃうなんて。それもあんな若い子に〜!」
殺しの道具がサプライズプレゼントに変わるとは、思ってもみない衝撃である。無事帰ってきたからいいものの、なければ再び練り直しになるところだった。
「もうっ! 自由気まま過ぎるぞ〜?」
廃墟の一室で暗い灯りをともし、一人はしゃぎ立てる女の名は宮舘春恵。
GD2ホールディングスに勤務する副社長、八階建のビルに所属する組織の実質的リーダー
「決めた! 次あの男の子殺す!」
狂気に満ちた、一途極まりない恋愛人だ。
「もうあげるものもないし別にいいよね?」
邪魔は奴は、皆始末する。
「キャハ♪ キャハハハハッ♪
アハハハハハハッ!!」
壊れた世界に住む優しい女の子である。
「待っててね〜? 大喜寺、健太くぅ〜ん?」
袖をまくり、取り出したナイフで腕を斬り滴る血を舐めてはぞくぞくと優越感に浸る。
鮮血にそまる車を見てから、赤い血の素晴らしさに気付いてしまったようで常に誰かの血を欲するようになった。
「次は何を赤く染めようかなぁっ..!?」
美しきは生にあらじ、死という簡潔な終わりこそが、人という存在の良さを色濃く表す。
※個人の感想です。
廃ビルで奇声が響く頃、捜索は難航していた。
「わかったか?」「…いえ、何も。」
情報が少な過ぎる、人を探すのには具体的な症状が幾つもいる。今持っている情報は数える程度で女、社長、失踪の三つ。
最も役に立たない要素を抽出し、纏めて並べているようものだ、
「早く見つけるぞ、どんな手でも使え。
どんな嫌なやつでも連絡を取れ!
憶測でも追加しろ、足りない要素や情報に都合よく括り付けて深く思考するんだ!」
もはや焼けくそであたり屋のように考えをぶつけるようになってきた。
「私も動こう、奴だけは逃してはいかん。」遭ったこと話した事は少ないが今は誰よりも疑いを掛け強く寄り添っている相手である。
「動くなよ宮舘、直ぐに迎えにいくぞ」
波乱の予感が渦を巻く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます