第7話

 「あの..大喜寺、健太です。」

 呼び出されたのは病院では無く、何故か会社のロビーの中だった。


「……お連れの方は?」


「あ、薄井 亜里香です。」


「……」

信用が無いのか亜里香の顔をじっと見つめる。

死後に受付を通すとは、権田という男はやはり一筋縄ではいかない男だ。


「社長のお知り合いならまぁいいでしょう。

正確には〝お知り合いのお知り合い〟ですが」

無愛想ながらも通してくれた。

ロビー1Fから、エレベーターにのって8Fまで進むらしい。墓石にしては高過ぎる、もっと適度な大きさに作れないのだろうか?


「……あの人キライッ..!!」


「まぁまぁ」

涙目で悔しがる亜里香をなだめながらエレベーターに乗り上の階を目指す。


「..8階って遠いよね、時間の余裕があって良かったけど。エレベーター内って電話繋がるのかな、試した事ないけど...」

 受付が言うには、社内には権田はおらずそれとは別に〝伝えたい事〟があるらしい。だとすればと聞いてみればやはり眠っている場所が他にある。しかし今はそこには行けない、だとすれば他者の協力を煽る必要がある。


「……」


『…君か、何だ?』

まさかこんなに早く再会するとは、通話といえど早過ぎる。


「知り合いが亡くなりました。僕は今諸事情で向かう事が出来ないので、代わりに病院に向かってくれませんか。住所は教えます」


『..諸事情とは?』「……。」

顔を見ずとも眼光が飛ばされている事がわかる、鋭い視線からは何処へ行こうと逃れられないらしい。


「それも後で説明します。」


『..事情は置いた、何故私が病院へ?

一緒にいた女性でもいいだろう』


「あ、私も一緒にいます!」『……』

かなり疑われている、連絡先を渡した時点で捜査対象になっていたのだろう。だがそれを踏まえた上でも行って貰うべき理由がある。


「街で起きている出来事に関係している被害者かもしれません。..それに、とても大切な人なんです。とてもお世話になった人なので、誰かに殺されたなら..調べて欲しいんです。」


『...直ぐに向かおう、場所を教えてくれ』


「有難う御様いますっ..‼︎」

電話越しに深く頭を下げた。人脈の入り口としていやしく関わっていたつもりだったが、確実な友だった。漸く気付いた、己が人間としてしっかりと関係性を築いていた事に。


「権田さん、ありがとう。」


「……やっと思い出したね、一つだけ」

エレベーターが停まり、頂上に到達する。

扉が開きその先には部屋が広がる。


「何もないな..。」

大きな部屋の中心に持て余すようにテレビが置いてある。それ以外には何も見当たらない


「人も居ないみたいですね」


『バツン..』「うおっ!」

一人でにテレビが起動し画面が光る。画面の中にはよく見知った顔が映し出されていた。


「権田さん..」 『よっ! 元気か?』

挨拶をしてにこやかに笑う。部屋の中だろうか、社内にしては雰囲気がラフ過ぎる。


『これをお前が見てる頃はどうなってるんだろうかねぇ..どうなってようが別にかまやしないんだけど、でもま最後まで見てってよ!』

無理な振る舞いには見えない。

心からリラックスしたいつも通りの態度だ、いつかの為に事前に撮って保存しておいたものなのだろうか?


『とは言ってもねぇ...特に伝えるべき事っていうのもないんだよ、これがね。人がいなくなるってときは突然だからさ、言葉残す余裕ってのは無かったりするもんだ。そういうもんだからさ、健太くん?』

気の抜けるビデオレターに自分なりの言葉を添えて、健太へのメッセージを占めた。


『何も気にせず自由に生きなよ。位も規模も他人も関係ない、イヤ〜な過去なんかも気にするな。勿論未来はイイものを想像したほうがいいんだろうけどな。』


「権田さん..」


『お前は、お前だよ。いつでもなっ..‼︎』

満面の笑みが余韻を残し、砂嵐に消えていく

健太の瞳からは、自然と涙が溢れていた。


「……権田さんらしいですね。最後まで、笑って愉快に去っていくなんて..」


「‥んだよ、なんでもっとしっかりしねぇんだよ。ちゃんと言葉くらい残せよぉっ..!!」


「....やっぱり、仲良いんですね..二人共。」

拭い切れない大粒の涙が、頬を伝い床へこぼれ落ちる。突然起きた最後の瞬間にどんな顔をしているべきか、表情など何でもいい。


「真相を解き明かそう、前へ進むんだ...!」


「はい、私も知りたいです。

何故こうなったのか、権田さんの為にも。」


『リロリロリロ..』「刑事さんからだ」

計ったように携帯が鳴り響く。すぐに繋げて電話に出ると、刑事の口から権田の死因が告げられる。


「何かわかりました?」


『頭を強打した事による撲死だ。おそらくだが、何者かによる犯行である可能性が高い』

事故ではなく事件、その線が強いという。

後頭部の大きな打撲痕、意図して背後から殴打された痕跡がある。抵抗した形跡は無く一方的に打撃を加えられたと思われる。


「刑事さん、協力してください。」


『それはこっちの台詞だ』


「そこで待っていて下さい。諸事情の事も含めて全部、話せる事は話します。」

友人の真相を暴く捜査が今、始まる..!!

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