第126話 大きな矛盾
「好奇心?」
「はい。牛上さんはとても珍しいタイプだったので」
タイプ? 欲望の強弱は関係ないのか?
「将来に大きな不安を抱きつつ、自分の力でなにかを成し遂げたい。という欲望を無自覚に抱いている。こういうタイプはけっこうレアなんです」
たしかに、あの時の俺は、将来に対して大きな不安を抱えていた。そして、初めて投資で利益を得た時は、今までにない達成感を味わっていた。
「ですから、歌舞斗町にあふれる欲望むき出しの人間とは違ったタイプの牛上さんが、金銭的な欲望を刺激されたらどうなるのか。単純に見てみたかったんです」
「なるほどね。まあ、ものの見事に欲望に踊らされたわけだけど」
「でも、破滅はしませんでしたね」
「それは君がリスク管理を……」
そこで大きな矛盾に気づいた。
なぜ黒月さんは、リスク管理が一番大事だと、ことあるごとに忠告してくれたのだろうか?
俺を破滅させたいなら、ひたすらおだてて調子に乗らせて、もっと大きなリスクを取るように仕向ければよかったはず。
「そういう決まりになってるんです」
「決まり?」
「はい。人間の欲望を刺激して破滅に導く場合、必ず自制の機会も与えなければならないんです」
「それは、君たち悪魔の間での取り決めってこと?」
「そのとおりです。業界内の自主規制といったところでしょうか……」
自主規制。悪魔の口から、そんな言葉が聞けるとは思いもしなかった。それにしてもなぜ、そんな回りくどいことを。
「過去に大きな失敗があって、このような決まりが作られました」
「失敗? 君たちのような存在が?」
意外だった。悪魔は常に失敗させる側で、失敗するのはたぶらかされた人間の側じゃないのか?
「はい。もう30年以上前の話になりますが、わたしたちは取り返しのつかない大きな過ちを犯したんです」
「それはいったい……」
「牛上さんは、バブル経済の崩壊ってご存知ですよね?」
「もちろん知ってる。君たち悪魔にとっては大成功の事例だよね」
日本中で欲望が膨張して破裂したわけだから、そこから生まれる絶望も大きかったはずだ。
「はい。短期的には大成功でした。けれど長期的に見れば、それは致命的な失敗だったんです」
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