第125話 誘蛾灯
君はいったい何者なんだ。そう問いかけてすぐに後悔した。
相手は得体の知れない存在だ。うかつな言葉で機嫌を損ねてしまったら、大変なことになるかもしれない。
「大丈夫ですよ。取って食べたりはしませんから」
黒月さんが、口元に手を当てて小さく笑う。
心を読まれてる。今すぐにでも逃げ出したいのに恐怖で体が硬直する。
「何者、ですか……」
彼女はうつむいて考えこんだが、すぐに顔を上げた。
「人間の欲望を刺激して、そこから生まれる絶望を
人はそれを悪魔と呼ぶ。
「そうですね。その認識で会っています」
また心を読まれた。もう今の俺は、まな板の上の鯉なんだ。相手は悪魔でこちらに為す術はない。そう思ったら、逆に少しだけ気持ちが軽くなった。
だったらもう、気になることは全部聞いてやる。
「黒月さんはこの場所で、ターゲットになる人間を探しているわけか……」
「はい。ここ歌舞斗町には、多種多様の強い欲望を持った人間が、たくさん集まりますから……」
黒月さんの瞳が怪しく光る。それを見た俺の脳裏に浮かんだのは、地元のコンビニの軒先に設置されている
怪しい光で昆虫をおびき寄せ、一瞬で焼き殺す無慈悲な殺虫機。彼女の瞳の紫色は、誘蛾灯が放つ光の色によく似ている。
「そして、ターゲットになった人間以外は、君のことを認識できない」
「そのとおりです。わたしと周辺の空間は、強い欲望を持ちわたしの関心をひいた人間以外は認識できません」
やっぱりそうか。街行く人々には、俺も見えていないんだ。
もしも見えていないのが黒月さんだけだったら、黒いパイプイスに座って見えない誰かと話している男の姿はかなり目立つはず。
しかし、納得するのと同時に疑問もうかんだ。
「黒月さんは、どうして俺を選んだんだ?」
歌舞斗町は欲望のメッカだ。俺よりもギラギラした欲望をもった人間がたくさんいるはずなのに。
「好奇心をくすぐられたからです」
彼女は即答した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます