Episode:3 協力関係

 フィリヤ達は巨大な門の前にいた。

 外敵を寄せ付けぬ強固な門であり、それは明らかに戦を想定されたものだった。


「ようこそ、我が国へ」


 イリミスの姿を確認し、ギギギと音を立てて開く門を背に彼女は言った。


「国、ね。さしずめ君は王女様ってところかい?」


「いえいえそんな、王女など大層な者ではありませんよ。私はただ、導かれし声に従いこの軍を率いているだけ…そこに統治はありませんよ。」


「おかえりなさいませイリミス様!」と複数の兵士が敬礼とともに挨拶をする。

 門の内側はかなり栄えた都市になっていた。

 それこそ、一つの国と言っても間違いないような。

 国を歩く者全て、道行く子供に至るまでイリミスの姿を見て歓喜の声を上げる。

 彼女は国民にとても好かれているようだ。


「この方達は私の客人です、丁重に案内してください」


「ハッ、それではイリミス様、王宮へ」


 そう言って、イリミスを連れて兵士達が王宮と呼ばれた巨大な城へと歩いていく。

 フィリヤ達は一歩遅れて兵士達に連れられ王宮へと向かう。

 そこは、激しい戦を彷彿とさせる強固な門からは想像もできないほど美しい外見だった。

 設計の至るところに施された芸術的装飾の数々は、ただならぬ高貴さをフィリヤ達に感じさせた。


「こちらへどうぞ」とだけ言われ、王宮内部をズンズンと奥まで進まされる。

 遂には中心地まで案内され、兵士達の声により扉は開く。

 絢爛豪華な内装が姿を現し、彼女を圧倒する。

 扉が開くと待っていたのは、少しばかり体躯より大きな玉座に座ったイリミスだった。


 コホンと咳払いをし

「改めまして、イリミス・ミシェールです。こんな形で申し訳ありませんが、一応ていというものがありますので」


 そう言ってイリミスは玉座を降り、フィリヤ達に近づく。

 扉の前に配置された兵士達は、ただたたずんでいるだけで何もしない。

 統率が取れていると言えば聞こえはいいが、フィリヤにはそれが人形の様に不気味に見えた。


「さて、状況の整理といきましょうか」


 パンと手を叩き、兵士達を部屋から退出させる。

 初めは「しかし…」と身を案じていた者もいたが、最終的にこの部屋にはフィリヤ達とイリミスの三人しかいない。


「特に、ファリアさんは沢山質問があるでしょう?でなければいかに自信があっても、異国の地で流されるままにこんな所まで来たりしないでしょうから」


 ファリアの疑い深い性格が見抜かれている。

 もっとも、それはフィリヤを守る為なのだが。


「そうね、時間は惜しい。…まず、この世界で起きてるについて教えてもらいましょうか?」


「なるほど、まずはそこからですよね。……私がこの世に呼ばれてから数ヶ月経ちますが、おそらくこの世界における以上とは、この島をわかつ戦争、でしょう」


「戦争…なによりこの島、か…戦争というのはイリミス、君の軍と別の軍との戦争という意味で良かったかな?」


「はい、私達は『反乱軍』分かたれたこの島…サマノエル島の南を統べる勢力です」


「サマノエル島…聞いたことはないが、一つの島の戦争如きが"異常"認定されるとは珍しいな」


 私も全然知らん、とフィリヤも首を振る。


「……いつからか、は分かりません。ただ、敵軍に少なくとも三人、代替者が確認されています」


 ファリアは驚きで目を見開く、そうではないかと勘ぐってはいたが、いざそうであると知らされて驚かないことはない。

 フィリヤも代替者、という言葉に強く反応する。

 彼女にとって、彼らの存在は今の所あまりに不明瞭だからだ。

 シーンと、少しの静寂が場を包む。

「それでは」とイリミスが口を開く。


「フィリヤさん、ファリアさん、あなた達に正式に協力を要請します。目的はこの世界における異常の排除、よろしいでしょうか?」


 ファリアは黙っている。

 ベリトロームのときと同じで、フィリヤに決定権を委ねる。

 彼女がOKならOK、NOならNOだ。


「やっぱり…異常、ってことは止めなきゃなんだよね」


 自分に言い聞かせるようにして、強く拳を握る。


「OK!イリミス、改めてよろしく」


「…はい!フィリヤさん、ファリアさん、よろしくお願いします!」


 こうして戦況は動き出した。

 サマノエル南部勢力、通称『反乱軍』に新たな戦力が加わることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る